酷暑にあえぎ、コロナへの不安が心から去らない。そんな2020年の夏、ささやかではあるが、私たちを覆う嫌ァな空気を払拭してくれたドラマがあった。
という訳で夏ドラ総ざらいだ。まず最大のサプライズは『私の家政夫ナギサさん』の大健闘だろう。回を追うごとに好感度は増し、第8話では16.7%の視聴率をマークした。
多部未華子の演技と爽やかさはむろん文句なしだが、家政夫役の大森南朋もすごかった。ヌーボーとした表情なのに、家事は完璧。この落差が観る者の心を掴んだ。ナギサさんって何者。このオジさんって誰?
あざとい仕掛けや、押しつけがましいドロドロ演出がなくても、清涼感あるドラマは心に沁みていく。
多部ちゃんと大森南朋のコンビも最強だが、警察ドラマ『MIU404』の星野源と綾野剛の掛け合いからも目が離せなかった。
テンポの良さと、ひと捻り、いやふた捻りある展開の妙。事件が発生するや、かわいいメロンパン車(実は覆面パトカー)を駆っての追跡が始まる。個人的には首都高などを使ったカーチェイスを見てると、アドレナリンがグイグイ高まった。首都高の美をあますところなくとらえた映像として記憶されるだろう。
病院薬剤師を描いた『アンサング・シンデレラ』も佳作といっていい。主役の石原さとみの表情と動きが画面を引き締めた。
タイトルは“縁の下の力持ち”を意味するという。「薬剤師は医者の奴隷だ!」という旧態依然とした職場で凜々しく働く石原の顔と所作は美しかった。
コメディもいいが、今作のようにひたむきでクールな彼女の演技がもっと見たい。この表情で恋愛やミステリアスなドラマに挑戦する石原を見せてくれよ。
単発ドラマにも成果があった。漫才コンビのボケ担当の沢井(生田斗真)がAIを使い個人スタジオから動画配信する『JOKE~2022パニック配信!』のアイデアとテンポ、完成度には圧倒された。
今季のベスト作だ。宮藤官九郎のセンスに唸る。並のリモートドラマと格が違う。そして生田斗真の一人芝居の巧さ。夏ドラ最優秀男優賞だ。『俺の話は長い』でも舌を巻いたが、長ゼリフの見事さは超絶的である。クドカンと斗真。最高のバディだ。
単発ドラマから、もう一作。テレ東『警視庁遺失物捜査ファイル』を期待せずに見たら、思いのほか楽しめた。貫地谷しほり、巧いねえ。そして味がある。落とし物に向かい話しかけるシーンが笑えて、しかも伏線になっている。歳の差の離れたこちらのバディは松重豊で、息はピッタリ。個性的で巧い役者の芝居に満足して、得した感じだ。こうしたドラマのおかげで、この夏を意外と楽しめた。
『JOKE〜2022パニック配信!』
8/10放送
https://www.nhk.jp/p/ts/218RXN77MJ/