ーー穏やかに。
渡辺 「あれ? 寝ちゃった?」と思ったら、看護師さんが「美智子さん、本当に頑張りましたね」と言ってくださって、母が逝ったとわかりました。「真理さん、一緒にお母さまの髪を洗いましょうか?」と優しくうながしてくれたので、母の髪を洗って、身体をきれいにして。
父は2014年に88歳で他界したのですけれど、母はなんでも父と一緒がいい人で、まだ元気だった頃も「パパが電動ベッドだから、ママも電動ベッドにしておそろいにしたい」なんて言い出したり。だから、母が88歳になったときは「もしかしたら」と危ぶんだんです。でも、それから2年、父が逝ってから8年も頑張ってくれました。
淋しくないと言ったら、うそになりますけれど、ちょうど母が逝った日は十三夜で。きれいなまるい月を見てたら、父のもとに駆け上がっちゃったんだなぁ、やっと会えて機嫌よくしてるだろうなぁ、と思ったりしました。最後に母が小さく「ふぅ〜」と吐き出した息、なんだか可愛かったんですよね。数ヶ月過ぎた今も、そんなことを思い出しています。
現在の生活は
ーー現在は、渡辺さん夫婦だけでお過ごしになっているのですか。
渡辺 はい。もともと、祖父の建てた実家を私が結婚したときに二世帯住居にして、ここ12年ほどは両親と同居していました。今も、私たち夫婦は変わらずそこで暮らしています。
実は、夫の両親も故郷の神戸からうちのすぐそばのマンションに2015年に引っ越してきてくれたんです。義父が前立腺がんを患ったことをきっかけに、長男の近くにいたいと決断して。
義父は2018年に他界したのですけれど、義母は、義父が最晩年を過ごしたマンションでこのまま暮らしたいとのこと。私たちを頼ってくれた義父の思いに応えるためにも、今年86歳を迎える義母ができるだけ穏やかに過ごせるよう、見守っていきたいと思っています。
帰宅したら、脳内出血で父が倒れていた
ーー渡辺さんの介護生活は、1998年12月にお父様の半三さんが脳内出血で倒れたことで始まったんですよね。お父様が倒れたときのことを教えてください。
渡辺 神奈川県民ホールで上演するお芝居のチケットを友人に頼まれて関係者から譲っていただいたのですが、その友人が前日に行けなくなってしまい、席を空けるのは申し訳ないので、めったに誘わない母に「行ってみる?」と声を掛けたんです。
父を置いてどこかに行くなんてほとんどないものですから、母は幕間で家に帰りたそうにソワソワして。「じゃあ、帰ろうか」と帰宅したら、父が倒れていたんです。