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『笑点』メンバー入りで賛否の声

『笑点』のメンバー入りの発表直後、賛否の声が上がるなか、一之輔はTwitterに《これからは「笑点出るなんてガッカリ!」みたいな方に「うるせえ、大きなお世話だよ!」みたいなことは絶対言わない素敵なジェントルマンになりますよ。落語は今まで通りだよ。寄席も出るし、ツアーやるし、洗濯物も畳むんだよ。わるかったな!》と投稿している。

「洗濯物も畳む」とさりげなく入れるところに、家庭も大切にしている一面がうかがえる。妻とのあいだには2男1女がおり、高座のマクラで子育ての話をすることも少なくない。真打披露興行の最中には、スケジュールのあいまを縫って長男の小学校の入学式に夫婦で出席し、その夜の高座では、子供の登場する「雛鍔」という噺をとくに意識もせず選んでいた。その長男には昨年、エッセイ集『いちのすけのまくら』(朝日新聞出版)が文庫化されるにあたり解説文を書いてもらっている。

『いちのすけのまくら』(朝日文庫)

 そんな一之輔を見ると、家庭を顧みずに芸の肥やしとばかり遊びまわるのは、もはや古い芸人像なのかもしれないとつくづく思う。先述の蝶花楼桃花の真打昇進披露興行の口上では、これを機に女性の落語家がもっと増え、いまは「女流落語家」と言われているのもいずれ「女流」が取れます、と話していたのも印象に残った。

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「これから年を取るのが楽しみ」

 筆者は同世代だけに、一之輔がどんなふうに年を取っていくか気になるところである。当人は、先にも引用した6年前の取材記事のなかで、《落語って、基本的におじいさんが喋るものだと思うんです。年を取ってるから説得力が出る噺がいっぱいある。もちろん、若い頃からの稽古の積み重ねが大前提ですが。いまの僕の年じゃ、どんなに上手くやっても説得力がないよな、という噺もありますね。(中略)だから、これから年を取るのが楽しみという面もあるんです》と語っていた(『週刊ポスト』2017年4月21日号)。

 いまの力の抜け加減からすると、年を取ればもっと面白くなるのではないかという期待も抱く。『笑点』が一之輔を迎えたのには、番組のさらなる延命を図るという狙いもあるはずだが、彼が老成していくさまを確認する場としても、今後も長続きしてほしいと思う。

いちのすけのまくら (朝日文庫)

春風亭 一之輔

朝日新聞出版

2022年4月7日 発売