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原発事故で無人になった町でひとり、63歳男性がダチョウ、牛、ポニー、犬、猫と暮らす理由

原発事故で無人になった町でひとり、63歳男性がダチョウ、牛、ポニー、犬、猫と暮らす理由

『劇場版 ナオト、いまもひとりっきり』中村真夕監督インタビュー #1

2023/02/25
note

ものすごいスピードで進められた、いわゆる「復興事業」

――2013年には東京オリンピックが決まりました。

中村 「東京オリンピックで福島は忘れられるよね」なんて話していたんですが、その頃からすごいスピードで、あの辺りの除染作業が行われて、いわゆる「復興事業」が進んだんです。富岡町の駅前は海岸に近くて、全部津波にやられた地域なんですけど、その沿岸部に、除染作業で取り除いた土を入れた不気味な黒いフレコンバッグのゴミ袋がブワーッと溢れて。それをドローンを飛ばして撮り、100億円以上かけた立派な焼却炉が建てられた町の様子も撮りました。

黒いフレコンバッグが大量に積まれている

 だから今作の後半は「凄まじい復興の事業をよそに、淡々と暮らすナオト」という趣きになり、人間を置き去りに進んだ復興が浮かび上がってきました。「復興五輪」を目指し、急速にいろんなものが再建されていくんです。夜ノ森駅周りは今も帰還困難区域なのに、2020年の春に間に合うように、無理矢理道路を通して「聖火ランナーを走らせよう」という壮大な復興計画が進みました。「でもさ、みんな帰ってこないじゃん」と住人はぼやくという……。

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 そうした間にも、ナオトさんの周りでは、動物たちの生き死にがありました。猫や牛が出産したり、ダチョウたちや猫が死んだり。牛は数頭に減っていました。

何か欲しいとツンツンつついておねだりするダチョウ

――それは寿命だったのでしょうか。

中村 震災から生きていて10年経つ頃ですから、そうなんでしょう。動物たちもみんな個性がありました。

 ダチョウの「モモ」と「サクラ」は、ナオトさんと会話をしてるわけじゃないけど、何か欲しいとツンツンつついてくる。だいたいナオトさんがどうやってダチョウたちを連れてきたのか謎なんです。「軽トラックに積んできた」と言っていて、もうワイルドすぎてよくわからない(笑)。

「少しのエサで大きく育つダチョウのように、小さなウランで大きな電力が得られる原発」を謳い文句に、ダチョウは原子力発電所のマスコットとされていた

 去年の暮れに亡くなったポニーの「ヤマ」は、タテガミがモヒカンみたいでヤンキーっぽい性格で、ナオトさんの言うことを全然きかなかった。猫たちは人懐っこくって、アイドルっぽいかわいさがあって写真集(『しろさびとまっちゃん 福島の保護猫と松村さんの、いいやんべぇな日々』)も出ました。

ポニーの「ヤマ」

――生まれた仔猫たちが愛護団体に連れて行かれてしまったそうですが。

中村 動物の愛護団体が「被災地の動物ですから」って強引に連れて帰ってしまったみたいです。地元にずっと残って動物の世話をしている人と、外から来て「動物を助けたい」っていう人たちには相容れない部分がある。でも一番手間がかかって世話が大変な牛を、愛護団体が連れて帰ることはないんですよね。

#2に続く)

INFORMATION

『劇場版 ナオト、いまもひとりっきり 』

2⽉25⽇(土)よりイメージフォーラムにてロードショー

https://aloneinfukushima.jp/

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。

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