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《本来の寿命は「55歳」程度である》人間が“寿命の壁”を乗り越えている「特有の理由」

2023/02/19
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人類の「生存戦略」を崩すリスク

 小林教授はDNAの修復メカニズムを研究し、修復能力を高めるために必要な物質を探索している。だが現時点では、まだ決め手となるものは見つかっていない。

「DNAの傷の修復能力を高める物質や方法が見つかれば、120歳という寿命の壁は越えられると考えています。理論上は、ゾウが持つDNAを修復する遺伝子をヒトの遺伝子に入れてやれば修復能力が上がる。もしゲノム編集がフルにできるなら、ヒトの最大寿命を延ばすことは可能だと思います」

アンチエイジングの遺伝子はあるのか?(写真はイメージ) ©iStock.com

 ゲノム編集技術の発展で、いまや遺伝子自体を変えることも可能になった。ただ、現在のところヒトに対するゲノム編集は法的にも倫理的にも認められていない。しかし、現在は法的に禁止されているものの、不老不死の薬を探し回らなくても、実は技術はすでに存在する。それを認めるかどうか、つまりゲノム編集によって寿命を延ばすかどうかは、社会に決定権が委ねられている。

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「結局、人の寿命を決めているのは社会だとも言えます」(小林教授)

 人工的に最大寿命を無理やり延ばすことには、もう一つの危惧がある。それは、もともと人類が持っていた「生存戦略」を崩してしまうことにならないか? という危惧である。

 生物は、それぞれ進化のなかで最適な生存戦略を選択してきた。人類の最大寿命はなぜ125歳なのか、その理由はわかっていない。

 ただ、そのような性質を持つ人類が種として生き残ってきたことは事実である。もしそこに人工的な手を加えてしまったら、何らかのバランスが崩れ、人類が種として生き残れなくなる恐れも否定できないのである。

ノンフィクション作家・河合香織氏による「老化は治療できるか 人は何歳まで生きられるのかーー最新研究の現在地」の全文は、月刊「文藝春秋」2023年3月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

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