落語と落語家にとっての最大の危機が、コロナと共にやってきたーー。

 コロナウィルス感染拡大への対策としてスポーツと文化イベントの自粛要請が出た2020年2月下旬から、落語会の中止や延期がじわじわと広がった。歌舞伎も演劇もライブもコンサートも、全てのエンターテインメントがコロナの影響を受けているが、中でも、ハコ=劇場が小さく、客の多くを高齢者が占めている大衆演芸=落語の状況はかなり深刻だった。

 だが、それから3年たった今、振り返ってみると、この「受難」が落語を鍛え、さらなる活力と、生き残るための選択肢を増やしてくれたことがわかる。

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落語会をけん引する柳家喬太郎

若手によるオンライン落語会が飛躍的に増加

 2020年3月下旬、小池東京都知事が会見で「『三密』を避けて、夜間、週末の外出は自粛を」と呼びかけた。「何があっても興行を続ける」と頑張っていた都内の寄席4軒が次々と休業を発表した。戦争や災害を除けば、寄席定席の全面休業は、400年に及ぶ長い落語の歴史の中で初めてのことだ。そして、「緊急事態宣言」は全国に波及し……と、その後の経過は周知のとおりである。

「寄席は年中無休だから、1か月も出番がないのは初めてだ。仕事も収入もなくなった。どうすればいいのか」とベテラン落語家が頭を抱えた。

 まず動き出したのは、意外や、人気者の落語家だった。鈴本演芸場の休業で、4月下席(21~30日)の夜の部のトリの出番がなくなった春風亭一之輔が、同じ日程で「10日間連続落語生配信」(無観客)を始めた。これに続いて、柳家三三も連日の落語配信に挑んだ。寄席に行く楽しみを奪われた落語ファンが、これに飛びついた。そしてそれ以上に、三三や一之輔よりも若い落語家たちが勇気づけられたのだ。

「ネットを使えば、俺たちだって何かできる!」

 以降、若手のオンライン落語会は飛躍的に増え、現在にまでつながっている。

神田伯山の楽屋風生配信が話題に

 また、配信のおかげで落語以外の面白いモノも見つかった。講談の神田伯山は同年2月にスタートさせた寄席の真打昇進披露興行を、最後の国立演芸場公演こそ日程途中で中止になったものの、ギリギリの状況でほぼやり遂げた。このとき、新宿末廣亭の楽屋風景を連日、YouTubeで生配信したのが「面白い」と評判になった。一般人が入れない寄席の楽屋をカメラが行き来し、落語家たちの素顔や喜怒哀楽を間近に捉えていく――。これがきっかけとなり、落語芸術協会では、その後も桂宮治をはじめ新真打の興行などで、楽屋風景配信を同じように採用し、それを見たファンが寄席に来るという好循環を生み出した。