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「日本の道はロバと歩けるの?」長旅を終えた太郎丸さん(33)が日本国内の旅で“気になること”

ロバと旅する太郎丸さんインタビュー #3

2023/03/05
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ロバがいないと旅ができない体になっていました

――改めてロバの良さや、その魅力を教えてください。

太郎丸 ロバのいちばんいいところは、いつも草を食べているところです。いつ見ても草を食べていて、その姿を見るのが好きですね。それにロバっていつも「シラフ」なんですよ。人間は酔っ払って、変に絡む人もいるじゃないですか。ロバは常にシラフで、安心できるって言いますか。

 今、「レンタルなんもしない人」が話題になっていますよね。依頼者がやっていることに何も意見しない、ただそこにいる人。それに似ているかもしれません。自分にとっては旅の間、そういう存在が必要なんですよ。

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――ただ荷物を運ぶだけではなく、ペットということでもない。そこが魅力。

太郎丸 ペットのように考えたことはないですね。なぜロバと一緒に旅をしているのかと言われると、やはり一義的には荷物を運んでくれるからなんですよ。最初はそこしか考えていなかったのですが、だんだんと変わって、ロバがいないと旅ができない体になっていました。

――それは何を求めているんでしょうね?

太郎丸 安らぎもあるし、ロバがいないと物足りなく感じます。だから旅といっても、ロバがいないと行きたいとも思わないし(笑)。ロバは不思議な人間との距離感があって、それが自分にとって心地よいんです。

荷物を背負ったロバとともに歩く(太郎丸さん提供)

旅に出る直前って、憂鬱な気分になるんですよ

――最後に、旅の魅力や、旅に出たいと思う人へのメッセージなどについてお聞きしてもよいでしょうか。

太郎丸 旅の魅力って、あまり人に語るものじゃないと思っていまして。そうやって書かれた文章を読むのもあまり好きじゃないです。ただ、旅に出たいけど、なかなか踏ん切りがつかないって人には、「自分もそうなんだよ」って伝えたいですね。

 旅に出る直前って、憂鬱な気分になるんですよ。とくに仕事を辞めて旅に出る場合だと、社会から切り離されたような感覚になるので、そこまでして旅に出る意味があるのかとか考えてしまいます。出発当日になっても、憂鬱なんですよね。本当は行きたくないような気持ちになる。

 でも飛行機に乗って行ってしまえば、気持ちがすっとスッキリとして、現地でことばがよくわからないままでもそのうち夢中になって、憂鬱な気分が嘘のようになくなります。だから迷っているなら行ってみてはどうですかと言いたいですね。

©杉山秀樹/文藝春秋

◆ ◆ ◆

東京駅から麹町駅までは「歩いてすぐ」

 取材が終わったあと、もう少し太郎丸さんと話がしたく、取材場所だった文藝春秋を一緒に辞した。そして最寄りの麹町の駅まで来たとき、ここまでどうやって来られましたかと聞いた。

 太郎丸さんは、この日、京都から新幹線で来ていた。東京駅からならば、有楽町から地下鉄の有楽町線か。あるいは大手町から半蔵門線で半蔵門駅というルートもあるか。そんなことが頭をよぎったが「歩いてきました」と。「東京駅から歩いて?」「ええ、歩いて。すぐでしたよ」。さも当然のことのように太郎丸さんが言ったのが、なんだかとても痛快だった。

 ロバと一緒に何千kmも歩いてきた人にとってみれば、東京駅から麹町までなど、歩こうと考えるのが自然なのだな。そんなことを思いながら、また歩いて東京駅に向かう太郎丸さんを見送った。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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