ロバがいないと旅ができない体になっていました
――改めてロバの良さや、その魅力を教えてください。
太郎丸 ロバのいちばんいいところは、いつも草を食べているところです。いつ見ても草を食べていて、その姿を見るのが好きですね。それにロバっていつも「シラフ」なんですよ。人間は酔っ払って、変に絡む人もいるじゃないですか。ロバは常にシラフで、安心できるって言いますか。
今、「レンタルなんもしない人」が話題になっていますよね。依頼者がやっていることに何も意見しない、ただそこにいる人。それに似ているかもしれません。自分にとっては旅の間、そういう存在が必要なんですよ。
――ただ荷物を運ぶだけではなく、ペットということでもない。そこが魅力。
太郎丸 ペットのように考えたことはないですね。なぜロバと一緒に旅をしているのかと言われると、やはり一義的には荷物を運んでくれるからなんですよ。最初はそこしか考えていなかったのですが、だんだんと変わって、ロバがいないと旅ができない体になっていました。
――それは何を求めているんでしょうね?
太郎丸 安らぎもあるし、ロバがいないと物足りなく感じます。だから旅といっても、ロバがいないと行きたいとも思わないし(笑)。ロバは不思議な人間との距離感があって、それが自分にとって心地よいんです。
旅に出る直前って、憂鬱な気分になるんですよ
――最後に、旅の魅力や、旅に出たいと思う人へのメッセージなどについてお聞きしてもよいでしょうか。
太郎丸 旅の魅力って、あまり人に語るものじゃないと思っていまして。そうやって書かれた文章を読むのもあまり好きじゃないです。ただ、旅に出たいけど、なかなか踏ん切りがつかないって人には、「自分もそうなんだよ」って伝えたいですね。
旅に出る直前って、憂鬱な気分になるんですよ。とくに仕事を辞めて旅に出る場合だと、社会から切り離されたような感覚になるので、そこまでして旅に出る意味があるのかとか考えてしまいます。出発当日になっても、憂鬱なんですよね。本当は行きたくないような気持ちになる。
でも飛行機に乗って行ってしまえば、気持ちがすっとスッキリとして、現地でことばがよくわからないままでもそのうち夢中になって、憂鬱な気分が嘘のようになくなります。だから迷っているなら行ってみてはどうですかと言いたいですね。
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東京駅から麹町駅までは「歩いてすぐ」
取材が終わったあと、もう少し太郎丸さんと話がしたく、取材場所だった文藝春秋を一緒に辞した。そして最寄りの麹町の駅まで来たとき、ここまでどうやって来られましたかと聞いた。
太郎丸さんは、この日、京都から新幹線で来ていた。東京駅からならば、有楽町から地下鉄の有楽町線か。あるいは大手町から半蔵門線で半蔵門駅というルートもあるか。そんなことが頭をよぎったが「歩いてきました」と。「東京駅から歩いて?」「ええ、歩いて。すぐでしたよ」。さも当然のことのように太郎丸さんが言ったのが、なんだかとても痛快だった。
ロバと一緒に何千kmも歩いてきた人にとってみれば、東京駅から麹町までなど、歩こうと考えるのが自然なのだな。そんなことを思いながら、また歩いて東京駅に向かう太郎丸さんを見送った。
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