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『ラスアス』の世界をより深いものにする工夫

 役者の演技も見事だ。主人公のジョエルは『マンダロリアン』のペドロ・パスカルが演じており、エリーは『ゲーム・オブ・スローンズ』などで知られるベラ・ラムジーが担当。脇役も迫力ある演技を見せてくれることが多く、ゲームでは描けなかった「ただ殺されるために出てくるような人物の迫真の命乞い」や、他人を脅しなれていない人間がおっかなびっくり銃を向けるシーンなど、人間の細かい感情まできちんと描けている。

©2023 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and all related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc.

 換骨奪胎して優れた作品を製作するためには、原作にはなかったオリジナル要素も重要となる。他メディア原作の映像作品化においては、オリジナル要素として過去のエピソードが描かれることがある。本作でも「どのようにしてパンデミックが広がっていったのか」といったストーリーが追加されている。

 過去のエピソードには、ゾンビものでありがちな要素がギュッと詰め込まれており、おぞましくもあり、時に愉快でもある。「人類の終わりに気づいた科学者の絶望」など原作ゲームにはなかった重要なエピソードが描かれており、『ラスアス』の世界をより深いものにしてくれるのだ。

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涙なしに観られない第3話

 この過去のエピソードで特に重要なのが第3話である。これは原作ゲームにも登場した「ビル」という人物(俳優はニック・オファーマン)を中心に描いたエピソードなのだが、彼は原作では単なる脇役に過ぎなかった。しかし、それをうまく膨らませた結果、CNNは「2023年のベストエピソードの一つに早くも名乗りを上げた」、Total Filmも同じく「2023年のベストエピソードの一つに早くもノミネート」と紹介、Esquireは「この10年で最高のドラマエピソード」という評価をしている。

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 ビルは陰謀論者であり、パンデミックが起こる前から危険な人物であった。地下室にたくさんの銃を揃え、周囲を監視する生活を続けていたのである。近所に住む人たちが軍に連れられて避難しても、自分は家に隠れたまま。その後、周囲から燃料などの物資を調達し、あたり一面に罠を仕掛け、自給自足の生活を過ごすような人物である。

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 そんなさなか、ビルの生活にある異変が起こる。落とし穴に落ちたフランクという人物(俳優はマレー・バートレット)に出会い、ひとりぼっちの悠々自適な生活が大きく変貌するのだ。

 フランクと出会う前のビルは、とてもではないが近づこうとは思い難い刺々しい人物であった。

 それは彼が社会からどのように扱われてきたのかをも表現しており、それゆえに武器を集めてひとりで生きようとしていたのだろう。

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 しかし、彼はフランクと出会う。そして、あんなにも危険な人物だったビルが、気づけば幼い子供のようなかわいらしさを見せるのである。“他人を愛することが人間をここまで大きく変えてしまう”という、『ラスアス』の根底にも繋がるテーマが描かれているのだ。