近年は大規模災害が頻発していることもあり、団員数が減る一方で、消防団の役割は増えている。洪水時には自治体が定める水防計画に基づき、河川を巡回して水位の確認も行う。命の危険も伴うハードな印象からか、新規の入団者は見つかりにくく、勧誘などが強引になる側面もあるという。政治的な部分に振り回された挙げ句、本来、市町村が負担すべき防火服や手袋などの備品を個人に支払うべき報酬などから賄(まかな)わざるを得ない台所実情もある。関西大学の永田尚三教授(消防行政)はこの問題に対して次のように指摘する。
「個人口座の回収は大問題だ。活動費の着服や横領が多発する中、通帳やカードを悪用されるかもしれないと疑う人が出てくるのは当然のこと。個人に支給すべき報酬を飲み食いや旅行代などにつぎ込む慣習について、見て見ぬフリをしてきた国や自治体の責任は重い。本当に団員個人への直接支給が行われているかどうか、行政主導で監視体制を整えていく必要がある」
報酬・手当については自治体向けに出す資料として、個人から受領印をもらったり、紙の報告書を毎回作成したりして提出している団も多い。不正の温床となるアナログなシステムのあり方を変えるには、政府がデジタル化の推進を謳うこのタイミングこそ絶好の機会だが、不正の闇が根深い消防団からはデジタル化を求める声は上がってこない。埼玉県のある自治体では、支給状況の正確な把握を避けるためか、消防団員のマイナンバーカードの取得率が1割程度にとどまるなど他の住民と比較しても低調で頭を抱えているという。
同意のないまま団の口座に振替
「団長時代にあったことを、全てお話ししたい」
ある消防団で幹部を務めていた男性が取材に応じた。汗をかいた者に報酬が届くようにしたい。男性は怒りに満ちていて、団員個人に報酬を直接支給する方式に切り替えるように役所に打診したが、担当者の答えはノーだった。「業務が煩雑になる」などとして申し出は拒否されたという。そこで、団員の口座から引き出した報酬を使った飲み会や旅行を禁止することにした。しかし、これには他の幹部団員が強く反発。のちに分かったことだが、飲み会や旅行を再開するための「圧力」として、退団者の希望が殺到していることをちらつかせてきたという。男性は幹部を退いたが、「公金を肥やしにするのはやはり許せない」と語気を強めた。
男性のように、正常な組織へ浄化しようと働きかけるにしても、孤軍奮闘するしかない。途中で「村八分」に遭ったり、ストレスで病気を抱えてしまったりしている団員もいる。「消防団マネー」の改革は思ったように進まない。