本人になりすまして報酬を分団の通帳へ
では、回収された通帳やキャッシュカードは一体どのように不正利用されているのか。
埼玉県狭山市のある消防団員は新たな不正の手口を明かした。入手した内部資料やこの団員の証言によると、ある分団ではポンプ車などを管理する機庫に約20人分の通帳と印鑑を紙箱に入れて保管している。会計担当者らが銀行に出向いて、この印鑑を使って「振込依頼書」や「払戻請求書」を提出。団員個人の同意を得ないまま、本人になりすまして報酬などを分団の通帳に振り込んでいる。分団で一括管理するこのお金は飲食代などに充てているという。
本人になりすまして銀行印を使用すれば、有印公文書偽造や業務上横領などの罪に問われる可能性がある。狭山市の担当者は取材(22年7月)に対して、「口座ごと回収している事例があると聞くので、団幹部に通帳などを返却するよう働きかけている」と答えた。
市が事務局を務めるゴルフコンペ
一方、男性団員は行政の手ぬるい対応に嘆きながらこう批判する。
「市の調査は分団長などの幹部に確認するだけで、実態を野放しにして隠していることに変わりない。団員個人に定期的な支給調査を実施し、監査を続けるべきだ」
ちなみにこの男性団員によると、狭山市では消防団のゴルフコンペが不定期で開催されている。分団ごとの持ち回りで開かれていて、参加自由であるものの、幹部から参加を催促されるという。中でも気になる問題は、このゴルフコンペの事務局を市が務めていることだ。入手した案内文書(公文書)は市が作成し、職員も参加。行政が集金役まで務めている。
国家公務員倫理規程でしか「公務」としてのゴルフ参加は禁止されていないため、地方公務員が縛られる規定は各地の条例によって異なるが、人事院の勧告に基づいて給料が増減する地方公務員もそれに準じた形で参加していいのか微妙なところだ。男性団員は、「公務かプライベートかの線引きも非常に難しく、倫理規程に反すると疑いを持たれても仕方がない」と指摘する。
狭山市の消防団員の定数は約300人だが、直近2年は前年度比約マイナス5%と著しく減少する。一般団員の報酬などが役員の飲酒代、宴会費に使われ、残金が戻ってくることがないことに不満はくすぶり続けていて、呆れ果てて退団する団員もいる。