長年続く慣習からの脱却に苦戦
同様に、関東地方の男性団員も直接支給への切り替えで、幹部から農協系の銀行口座を作成するほか、支給された報酬を別の口座に振り替えるようにLINEで指示を受けた。男性は納得できなかったが、親族からの指示だったこともあり、従う方が無難だと判断した。それでも、次のように指摘する。
「機運が高まっている時に消防団を刷新しないといつまでも変われない。(振り替えの指示は)問題を『見えない化』しているだけで、団員数も減り続けている中で危機感が薄すぎる。決してお金が欲しいとかではなくて、正常な組織運営に戻していくべきだと思う」
寄せられた声によれば、こうした消防団特有の「風土」の改善に着手し始めた団や自治体もあるようだが、多くが長年続く慣習からの脱却に苦戦していた。町田市消防団(全5分団36部)は2022年6月下旬、報道を受けて3部で口座の不正管理があったと発表した。団幹部らによる会議が続いているが、一般団員には開催さえも知らされていない。市は今後の対応について、幹部が集めた額や使途などの裏づけはとっておらず、さらに詳細な調査をしていくか検討中として濁す。別の部のある男性団員は「調査は幹部を通じたもので、末端は調査や会議が行われていること自体知らない。口座も返却されていない」と語る。
時代錯誤な反論
不透明な報酬体系や行政の対応に不満の声が上がる中、一方の高齢団員や団員OBからは、報酬を一括管理する妥当性を主張するような意見も寄せられた。
「報酬を旅行や飲み食い代に充ててきたのは事実。長くやってきた『しきたり』だ。文句を言う人はいない」
「消防団に在籍した20年間、報酬を受け取ったことは一度もない。報酬を飲み食いに使って何が悪いのか」
団員間、特に世代によって報酬を巡る考え方が大きく異なるが、時代錯誤の感覚といわざるを得ない部分もある。ちなみに、こうした飲み会は操法大会に向けた訓練後に開かれる機会が多いが、放水時のホースの伸ばし方や持ち方を競うこの操法大会そのものも、現場で必要とする技術を身につけられているのか疑問視する声もある。会社員勤めの団員であれば、大会前は平日の出勤前後に訓練を強いられることから廃止を訴える声も多い。
過剰な負担に加えて、若者を中心とする消防団離れの一因ともされる不透明な報酬体系。中には裁判沙汰にまで発展するケースも出てきている。
「政治資金パーティーの会費にも流用されている」
「消防署内に設置された団体が消防団から『上納金』を集めている」
団員に直接支給するべき報酬などを巡っては、必要備品や遊興費に充てられているケースがほとんどだが、複数の幹部からは情報の真意は分からないものの、こうした疑いの声まで寄せられた。(#2に続く)