自治体によって異なるものの、一般的に年額報酬、出動手当などが団員に支給されることで組織活動が行われている地域の「消防団」。町を守ろうと尽力してくれる彼らの報酬・手当は私たちの税金によって賄われている。もちろん、適正な報酬が支払われるのはおかしなことではないだろう。しかし、近年は実際には活動していない幽霊団員を利用した水増し請求が問題化している。
また、消防団員に銀行口座を新規に開設させ、その口座の通帳やキャッシュカードを団幹部が回収し、行政から振り込まれる報酬を団員個人に直接渡さずに不正利用しているというケースも指摘されている。はたしてその実態はどのようなものなのか。
ここでは、毎日新聞記者の高橋祐貴氏による『追跡 税金のゆくえ~ブラックボックスを暴く』(光文社新書)の一部を抜粋。消防団の幽霊団員問題を取材してわかった驚愕の実情を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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幽霊団員に3億円超
この幽霊団員を巡っては2020年12月、全国の消防団員の実態を把握しようと、人口10万人以上の264都市を対象にアンケート調査を実施した。その結果、登録されているのに活動履歴が把握できない幽霊団員が18~19年度の2年間で少なくとも116自治体に計4776人いることが分かった。幽霊団員に支払った報酬の総額は計3億1427万円に上る。
また、横領などの不正事案も続出し、被害額は数百万~数千万円に上る。長崎県佐世保市では2013年9月、消防団の口座から計約3200万円を引き出し、経営する会社の運転資金や自宅のリフォーム、車の購入費に充てたとして、会計担当の副団長を懲戒免職にした。
共通するのは報酬などが直接、個人に届いていないことだ。こうした問題は、当事者が地域や職場で「村八分」にされることを恐れるため、表面化してこなかった。
消防団と政治家の深い関係
不正事案が放置されてきた背景には、消防団と政治家の関係の深さもある。消防団は与野党問わず票田となっていて、自治体職員がメスを入れようにも思うように進まなかったり、抵抗を受けたりする事情がある。
町田市のある団員は、2017年にあった都議会議員選挙で「ポスター張りや(政策を訴える)朝立ちも手伝わされた」と証言した。国政選挙でも消防団が駆り出されるという。都内のある団では新年会での政治家との交流は慣例で、招待した政治家の飲み会費用は団で受け持つ。その際、個人に配られるべき報酬や手当を充てている。当然、政治家はこうした事情をある程度把握している。