2021年度に過去最高額を更新した日本の税収。私たちの租税負担率も上がっているなか、集められた税金は無駄なく活用されているのか……。

 毎日新聞社で記者を務める高橋祐貴氏によると、地方の山間地域では、公金が届くべき人に届いておらず、ましてや、地域の有力者によって公金が搾取されるといった事態が起こっているのだという。

 ここでは、同氏の著書『追跡 税金のゆくえ~ブラックボックスを暴く』(光文社新書)の一部を抜粋。農用地に関する助成金制度を取り巻く歪な実情を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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村八分の凄惨な実態

 2013年5月10日朝、大分県宇佐市内の農村に住む元公務員の70代の男性は野菜の出荷作業中に、地域の長老的存在の住民に車の中に呼び入れられ、こう告げられた。

「付き合いせんことに決めたから。市報も配らんし、行事の連絡もせんので、参加せんとってくれ」

 心当たりはあった。この日の約1カ月前、男性が法事で関西方面に出かけている間に集落の13世帯の住民らは会合を開き、男性を「村八分」とすることを全会一致で決議。翌日には、自治区の戸数が1戸減ったと市に届け出ていた。きっかけとなったのが、国の「中山間地域等直接支払制度」を巡るトラブルだった。

写真はイメージ ©️AFLO

 この制度では、集落ごとに協定を締結し、農地の面積や傾斜に応じて交付金が支払われる。男性は2009年に母親の介護のためにUターン移住し、11年に親から引き継いだ田んぼで稲作を始めた。しかし交付金を受け取ったことはなく、市に制度の説明を求めても、最初は「全て地域で決めるので、行政はタッチしません」の一辺倒だったという。

 協定上は以前土地を貸していた知人が男性の田んぼの管理者になっていたことが分かったが、名義変更に応じてもらえず、集落の協定から自分の田んぼを除外するように求めると、住民との関係が悪化し始めた。

愛用していた帽子がずたずたに切り刻まれて

「金はいらんから、土地を返してくれ」

 生まれ育った地域住民と争う気はなかった。男性は集落の会合で訴えたが、「外から来て偉そうなことを言うな」などと罵声を浴びせられ、次第に嫌がらせはエスカレートした。男性は周囲から口をきいてもらえず、保有する畑に行くための市道には「進入禁止」と記されたパイロンを置かれた。畑に植えていた柿の木は刃物で傷つけられたうえ、傷口に薬品を塗られたために枯れてしまった。愛用していた帽子がずたずたに切り刻まれて自宅前の庭に投げ込まれていることもあった。異常というより狂気に近い。農村地域の閉鎖性にたじろいだ。

「なんでこんな目に遭わんといかんのか」

 男性は2018年、村八分の扱いを受けて人権を侵害されたとして、歴代の自治区長3人と市に計330万円の損害賠償を求める訴えを起こした。