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地元で米を育てた人が「一軍の選手」

 男性は東京の大学を卒業、そのまま就職し、30歳を過ぎた頃に地元にUターンした。「専業農家こそ地域の長」という空気感が強く残っていて、兼業農家の男性は未だにうまく地域に溶け込めていない部分があるようだった。それもあってか、地域に配られる各種の交付金がそれぞれの農家に配られていないことに違和感を持っているが、直談判するのはためらっている様子だった。

「地元の中学、農業高校を卒業して、米を育てた人が『一軍の選手』として、交付金も差配できるんです。僕は米を育ててないから1.5軍という扱いです」

 自治体への会計報告は歳入と歳出の金額が合うように、例えば地域の草刈り活動をした際、実際は一人1000円ずつ配ったとしても、会計上は1万円ずつ配ったことにしている。監査機能がまったく働いていないことをいいことに、地域の盟主らがその差額を飲み食いなどに充てている。帳尻合わせの領収書も作成。あらゆる農業補助金の中でも特に問題が起きやすいのが、この直接支払制度だという。

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写真はイメージ ©️AFLO

「持ち逃げが起きて警察に言おうと思っても、元々地域で丸抱えしているので言うわけにはいかない。特定の人が女性にブランドもののバッグを買ってあげたり、おいしいものを食べさせてあげたり。アホみたいな金の使い方なんですけど、地域のメンツにも関わってくるから言えないんですよ」

 農水省は過疎化や人口減少に併せて、集落の統合を図りたいが思ったように進んでいない。交付金の管理者が「ネコババ」する取り分が減ってしまうのが一つの要因とみられる。

「自治体へ提出する資料をちょろまかして出しても何も指摘されないんです。いちいち見てられないんでしょうね。これぐらいは大丈夫だろうっていう積み重ねです。最近は孫や息子、娘が帰省した時のお小遣いとして交付金を充ててなんとか使い切っていますよ。分かっていても言わないことが吉なんです」

 制度上の欠陥が不正を生み出しているという指摘だ。使途の透明性とチェック機能が担保されておらず、会計帳簿といった資料が公開されていないケースもある。

過疎化や人口減少が進んでも変わらぬ仕組み

 管理者を務める地域の有力者は昔からの地主や銀行員、公務員などさまざまだが、有力者と移住者の価値観の違いが表面化すると争いが起きやすい。「しきたり」を重んじるかどうかだ。

「地方の活性化を理由に配られている交付金なのに勘違いして、楽して過ごそうというロクでもない奴らを生み出す原因にもなってしまっていると思うんです。田舎は選挙への協力を惜しまないでしょ。しかも、国は(生産過剰となった米の生産量を調整するための)減反政策に失敗した反省があるのか、厳しく切り込めない。過疎化や人口減少が進んでいるのに、地域に配られる公金の仕組みが変わっていないのはやっぱりおかしいですよ」

 ノートを帳簿代わりにして、税金の使途を確認するやり方では管理者が偏る傾向があるようだ。一方で、今やほとんどの高齢者がスマホを持つ時代でもある。デジタル化の導入が進めばこうした弊害も改善され、見える化や負担減も進むように感じるが、望む声は少ない。本音は甘い蜜が吸えなくなることへの危機感ではないだろうか。