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締結日さえ記載されていない協定書

 男性が市に情報公開請求をするなどして調べたところ、市が保管する直接支払制度の協定書には、締結日さえ記載されていないことが判明した。集落には年約300万円が支払われ、そのうち半分が個人に配分されることになっているが、市への提出資料では個人配分の欄が空白になっている年もある。

「地区の代表者の意のままにできる制度。チェックするはずの市や議会も機能していない」

 トラブルをきっかけに、集落の協定は2015年に終了した。

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 大分地裁中津支部は2021年5月、「社会通念上許されない村八分」があったと認め、歴代区長3人に計110万円の賠償金支払いなどを命じた。しかし、集落の住民らは賠償金の負担を分け合ったというものの、男性には110万円の賠償金はもちろん、国の交付金も返金されていなかった(21年6月上旬時点)。男性によると村八分は続いていて、争いはむしろ泥沼化している。

 市の担当者にも取材したが、「あくまでも地域間のことなので」と繰り返し、歯切れが悪い。消防団と同じで多くの職員が地域で生まれ育った。問題への深入りは極力避けたいのだろう。公金の受け取りをきっかけにしたトラブルが起きても、対応は後手に回っていた。男性は中山間地域等直接支払制度の概要を知ろうと役所の担当者を訪ねたものの、満足な説明はなかったという。

「(集落内でトラブルが起きて)警戒感が広がったのか最初は制度の説明もされず、パンフレットを渡されただけだった。行政がちゃんと説明してくれていたら、地域でのトラブルもここまで発展することはなかったと思う」

 地方公務員を務めていたからこそ、行政の仕事ぶりや心理は手に取るように分かった。だからこそ、事なかれ主義で腫れ物に触るような対応が許せなかった。

ネコババされやすい交付金

 また、九州地方の60代男性も同様の問題に頭を抱えていた。地元で記者と会っていることが知れわたると良からぬ噂が広まるかもしれない――。そう思った男性とは市街地のホテルで落ち合うことになった。日に焼けた顔立ちにしわの深さが目立ったが、過疎が進む地域内では若手ということで語気は力強かった。農道の清掃など地域の力仕事を買って出ていることもあって、地域のもめ事の相談も引き受けることが多い。

「交付金150万円を持ち逃げされ、皆で出し合って穴埋めしたことがある」

 男性はおもむろに驚愕の事実を明かした。市や警察には通報せず、内輪で処理したという。詳しく聞いてくれと言わんばかりだった。

「正直に言いますと、中山間の交付金はいろんな問題があって。行政から支給されたお金を管理する別団体をわざわざ作って、そこから草刈り機とかを買っているんです。ある日、その金がなくなって、『えっ、しかも逃げられたんか』というのが何回かありましたね。田舎だから会計をできる人がそんなにいない。特定の人が長年管理し続けるので、ネコババが起きちゃうんです」