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「あんた、頭おかしいんじゃないの?」子どもに“性別への違和感”をカミングアウトされた母親の壮絶な反応

「あんた、頭おかしいんじゃないの?」子どもに“性別への違和感”をカミングアウトされた母親の壮絶な反応

『親子は生きづらいー“トランスジェンダー”をめぐる家族の物語』より#1

2023/03/08

genre : 社会, 読書

note

我が子のカミングアウトに…母の想いは

(※著者の母による記述)

 ついにカミングアウトの日が訪れた。天と地がさかさまになったような気持ちだった。

 自分の体が地についていない状態。

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 美穂は、私に話をしても聞いてもらえないと思い、主人に話をして、「もしお母さんに伝えるなら、お父さんから私に伝えてほしい」と言ったらしい。それまで仙台の病院にも何回か一人で行って証明してほしかったのが叶わず、東京でそのような障害の子どもたちや大人たちの救世主の先生をネットやら何やらでさがし、着々と準備をしていたようだったが、仙台の病院では、時間をかけても、病名はつけなかったようだった。

 今思えば、きっとその時の美穂は、スポーツ時代のボールを追う時のような必死な日々だったに違いない。私は、とにかく、主人から言われた時(主人の言葉「美穂から今日言われたんだけど、体は女なんだけど、心が男らしいと」)、「え? 何、言ってんの?」と言ったように思う。「あなたはそんなこと聞いて何て言ったの⁉」と怒って言ったように思う。主人は「何とも言えず、だまって聞いていた」と。

 私は、激怒しながら、「なんでそんな大事なこと、はじめにあなたに言うの!? なんで私に言わないのよ!! とにかくまだ20歳にもなっていないのに、1人で人生を歩んでもいないのに、自分のことをそんな風に決めることができるはずないじゃないの!!」と。「そんな大切なことは、仕事をして、自立をして、自分の道が決まってから言うべきよー!!」と、私の勝手な感情をぶつけていたように思う。

 そして、美穂にも「学生の身分で何を言っているの! とにかく自立をしてから、親に納得させられる行動や言動や金銭力などが身についてから全て決めるべきだー!! あんたなんか、なんの苦労もしていないで生きてきたくせに!!」などと、今思うと、思いやりや聞く耳を全く持たない、持てない状態、野蛮極まる言動を浴びせたと思う。

「親だって、あなたにこんなに何不自由なく育てたのに、20歳前になってそんなこと言われたら、こんなに不幸なことはないでしょ!!」「あなたが今を変えたいなんて。私だってね! 今までの気持ちを消化するのに、あなたが生きていた年月の倍は、かかるんだからね!! すぐ簡単にハイそうですかーなんて言えるわけがないでしょ! なんてわがままな子なの!!!」と激怒しながら言ったと思う。私に、美穂の話を受け入れるスペースはなかった。

 その大きな声のやりとりを、なだめるかのように、困ったように、私があまりに激怒していたので主人が間に入って30分、1時間と、時は過ぎたのかもしれない。主人は美穂の話をはじめに聞かされて驚いたであろうが、美穂も可哀想だし、私も可哀想だし、自分もどう対応していいかわからなかったが、その大声でのやりとりをどうにか静めなければならないと思っていたのに違いない。

 とにかく「私が、今あなた(美穂)に何を言われても、それをハイとは受け入れられないし時間が必要でしょー!! 大学生で、まだ働いてもいないで、身体を手術するとかそんなふざけたこと、受け入れられる親がどこにいるの!? 愛情かけて育てて、そんな、私の作品(美穂)に手をつけないで!! 壊さないで!! こんなに立派に育てたのに!!」など、今思うと訳のわからないことを言っていた。美穂は、この親は無理だ――と思ったに違いない。

 とにかく、受け入れることはおろか、話を聞くことすら私にはできなかった。

 なぜ、こんなことになってしまったのか。

 私にはわからなかった。

 一体、どこで、道を間違えたのか。

 私の人生の何がいけなかったのか、わからない。

 私の生き方の、どこが……

◆◆◆

※編注
「性同一性障害」という呼称は「実態に合っておらず誤解を招く」という観点から、2013年に公表されたDSM-5(米国精神医学会『精神疾患の診断・統計マニュアル第5版』)では「性別違和」、2019年に公表されたICD-11(世界保健機構(WHO)『国際疾病分類第11版』)では「性別不合」に変更されている。

親子は生きづらいー“トランスジェンダー”をめぐる家族の物語

勝又 栄政 ,東畑 開人 ,清水 晶子 ,佐々木 掌子

金剛出版

2022年12月12日 発売

「あんた、頭おかしいんじゃないの?」子どもに“性別への違和感”をカミングアウトされた母親の壮絶な反応

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