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「だから何?」「僕だったら採用しない」トランスジェンダー男性が就職活動でぶつかった“世間の無理解”という壁

「だから何?」「僕だったら採用しない」トランスジェンダー男性が就職活動でぶつかった“世間の無理解”という壁

『親子は生きづらいー“トランスジェンダー”をめぐる家族の物語』より#2

2023/03/08
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 LGBTQに関する研究や講演活動を行う傍ら、障害者の就労移行支援を行っている勝又栄政さん(31)が、生まれた時に割り振られた性別は女性だった。幼少期から性別違和に悩まされ、現在ではトランスジェンダー男性であることをカミングアウトしている。

 ここでは、そんな勝又さんの半生を本人と母の双方の視点で綴った『親子は生きづらいー“トランスジェンダー”をめぐる家族の物語』(金剛出版)から一部を抜粋。当時大学3年生だった勝又さんは、親にカミングアウトして相談したにも関わらず、希望している乳房の切除手術やホルモン治療をまだ受けられていないことで思い悩み、就職活動への不安を募らせていた……。(全2回の2回目/続きを読む

※画像はイメージ ©AFLO

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女での就職か? 男での就職か?

 大学3年の秋。就職活動の開始は目前だった。なんやかんやで、もうカミングアウトをしてから1年半。結局、手術などの具体的な話は一向に進まないまま、この時期が来てしまった。ここまでいろいろやったけど、結局、身体も戸籍も女のままで、正直どのように就職活動を進めていったらいいかわからなかった。

 ひとまず、大学で開かれていた就職活動に向けてのセミナーなどに参加をした。

「挨拶は胸を張って! お辞儀は45度に」など、まるで兵隊のように、みんなで立ち方やお辞儀の角度など練習したりした。この「胸を張る」という動作も、胸が強調される動作だったので、すごく嫌だった。正確に言うと、胸を張ること自体は、やったっていい。背中が丸まってだるそうに見えるのは良くないと思っていたから。でも、「胸がある」と一瞬でも感じるのが嫌でどうしてもやりたくない。

 また、セミナーの中には、決まって「女子学生限定! メイクアップ講座!」なんていうものがあった。もちろん行く気なんてない。でも行かなかったら、非常識だと思われて、就職なんかできないのかという恐れも強く感じた。でも、そこに行けば自分は「女子学生」になってしまう。だからといって、男子学生のセミナーに足を運ぶのも周囲の目が気になり、勇気が出なかった。もう、自分ではどうしたらいいのか、わからなかった。

 細かいことでいちいち揺れ動く気持ちが苦しかったけれど、以前親と衝突した時に、大学の先生には何度も泣きついて相談できていたこともあり、就職の相談も一応先生にすることができたので、それだけは救いだった。

「就職するのに、カミングアウトしてだと難しいですかね?」僕は先生に質問した。

「前例がないからわからないね……でも、まずは女性で入って、実力が認められてからの方がいいようにも思うよ。まぁそれが勝又君にとって良いかはわからないけど……」

 こっちもわからないから相談しているのだけど、誰からも「わからない」しか返ってこない。当たり前なんだろうけど、大人がわからないなんて、こっちはもっと不安だよ。ネットの情報を見る限りでは、カミングアウトをして面接で落とされたという情報しか流れていない。正解らしきものすら、僕には見えなかった。