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「確信犯だよ。スポンサーから金を引き出すために…」登山家・栗城史多が“単独無酸素での七大陸最高峰登頂”という“嘘”をつき続けていたワケ

『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』より #1

2023/03/02

genre : エンタメ, 読書

note

 彼が掲げる『単独無酸素での七大陸最高峰登頂』が、それだ。栗城さんに初めて会ったとき、彼は「酸素ボンベは重いし高価なので、これまで登った7つの最高峰では使わなかった」と私に語った。しかしそれは、彼のいわば「ネタ」だった。

 どういうことか?

 そもそも酸素ボンベを使って登るのは、8000メートル峰だけなのだ。つまり七大陸最高峰のうち、エベレストのみ。他の6つの最高峰にボンベを担いで登る人間など、端からいないのである。「単独無酸素」と「七大陸」がセットになること自体、ひどく誤解を生む表現なのだ。

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 栗城さんの夢を正確に表現するなら……。

『単独での七大陸最高峰登頂、および無酸素でのエベレスト登頂』

正確な表現よりもキャッチーな言葉が必要だった

 私は全国放送の番組に出した企画書に、彼が語った「酸素ボンベは重いし……」のくだりをそのまま書いた。しかし不勉強を自覚しているから、提出前に確認を求めた。栗城さんは「面白い」としか言わなかった。企画書の段階とはいえ、テレビは不特定多数の人に見てもらうものだ。そこに描かれる主人公なら「河野さん、勘違いしていますよ。ここ直してください」と、視聴者に誤解を与えないよう注意を払うのが普通ではないだろうか。

 日本ヒマラヤ協会の大内倫文さんともこの話題になった。「国語力の問題じゃないですよね?」と私が言うと、大内さんは「まさか」と笑った。

「確信犯だよ。スポンサーから金を引き出すために、しれ~っと言ってんだ」

 メディアや講演会の聴衆にアピールするためにも、キャッチーな言葉が必要だったのだろう、正確な表現よりも。

たどり着いた一つの仮説

 私が栗城さん本人に『単独無酸素での七大陸最高峰登頂』という表現の是非について問い質したのは、2008年の12月半ばごろだったと記憶している。彼の事務所だった。私がこの話をすると、彼の表情がとたんに陰った。

「新聞の記者さんには一人いましたけど、テレビの人でそれを言った人は初めてです」