急性腎不全の治療を始めると、かつてのラグビー仲間たちが次々と見舞いに訪れた。「どうしたら治るんだ?」とある友人に聞かれ、「治らない。治すには移植しかないけど、20年ぐらい待ってドナーが見つかればラッキーな方だ」と伝えると、後日その友人から連絡がきた。
「新横浜に、海外で臓器移植ができるとうたっている団体がある。話だけでも聞いてみないか」
小沢さんと菊池仁達容疑者が代表を務めるNPO「難病患者支援の会」を初めて訪れたのは2020年末だった。
「綺麗なビルにある、立派な事務所でした。菊池の次男だと名乗る男性のほかに、海外で肝臓移植を経験したという男の人が『手術で生活ががらりと変わった』と体験談を話してくれました。手術を受ける前と後の診断書を見せてくれて、『肝硬変という文字が消えているでしょ?』と嬉しそうだったのを覚えています。彼は中国の天津で手術をして、計2300万円かかったと話していました。帰国後に最寄りの病院に転院するアフターケア体制もその時に説明されました」
その日は、小沢さんは話を聞くだけで「難病患者支援の会」の事務所を後にした。手術費用は高額だが、2020年12月からラグビー仲間の支援を受けてできた「小沢克年を救う会」が募金を開始し、1500万円の目標金額が集まりつつあり、何より命に値段はつけられない。
海外での移植手術の検討のために、小沢さんは21年1月に再び「難病患者支援の会」の事務所を訪れた。すると、出迎えたのは地味なスーツにしゃがれ声で話す菊池容疑者本人だった。
「え? そんな噂、信じてんだぁ……」
小沢さんは菊池容疑者に対して臓器移植を希望することと同時に、懸念点をはっきり伝えた。「手術は違法ではないのか」ということだ。
「中国で臓器を無理矢理取られている人がいるという報道を見たんですよ。それで菊池に『僕のために誰かが命を落とすのは本意ではありませんし、違法は困りますと不安をぶつけました。すると菊池は、『え? そんな噂、信じてんだぁ……』と鼻で笑ったんです。あの患者を見下した菊池の横柄な顔は、自分は忘れられないですね」
続けて、菊池容疑者は手術の安全性を強調したという。
「菊池は得意げに『うちは死体移植だから大丈夫、これは法に触れないんだよ』と言いました。中国では死刑囚から臓器を移植する制度があるから問題ない、と。さらに『中国は臓器移植の先進国で、ものすごい手術の数をこなしているから絶対に大丈夫』と言い切りました。中国以外でやるヤツは馬鹿だ、と言わんばかりの勢いでした。僕は『また相談に乗ってください』と言い残して、ひとまずその場を後にしました」