臓器の移植を望む患者から数千万円の大金を受け取り、海外でずさんな手術を受けさせ、複数の死亡者を出した“臓器移植斡旋事件”。日本人男性に無許可でベラルーシで肝臓の移植手術を受けさせたとして逮捕されたのは、NPO法人「難病患者支援の会」理事の菊池仁達容疑者(62)だ。(全4回の4回目/#1、#2、#3を読む)
取材班は菊池容疑者の思考の一端が見える通話音声記録を入手した。通話の相手は「難病患者支援の会」が仲介した腎臓移植手術のためにキルギスに渡った小沢克年さん(52)や、NPOのスタッフである。計約150分に及ぶ音声データからは、菊池容疑者が患者の恐怖に付けこみ、大金を巻き上げる仕組みの実態が見えてきた。
「『生きている人からもらった』ってことは言ってほしくないんですよ」
録音データは、小沢さんとともにキルギスで手術を待っていたアラブ人女性2人が移植手術後に死亡した数日後の2021年12月30日のものだ。
それまでは「絶対とはいわないが回復する」など辛うじて体裁を保とうとしていたが、ついに観念したのか臓器売買の実態を赤裸々に語る言葉が記録されていた。
《例えば日本の病院、●(病院名)行くにしても、●(別の病院名)に行くにしてもね、『ドナーはどんなドナーでしたか』って必ず聞かれるんですよ。で、例えば『交通事故のドナーでしたよ』『こういう書類ももらいましたよ』と提示してもらいたいんで、小沢さんには口が裂けても『生きている人からもらった』ってことは言ってほしくないんですよ。日本に帰ったら。そこはちょっとねぇ、約束なんですよ》
菊池容疑者は小沢さんに対して、明確に事実の隠蔽を指示している。小沢さんは最終的に手術を断ったが、腎臓を提供するドナー候補は若い女性で、もちろん生きた人物だった。そして菊地容疑者は、書類の偽造にも言及した。
《『生きている人からもらった』って言うと色んな攻撃受けるから、はっきり言って。結局、『裏で金が動いてんじゃないか』とかね。『貧乏な人から買ったんじゃないか』とか言われますから。タジキスタンでやろうが、カザフスタンでやろうが、どこでやろうが全部これ、(書類上は)死体移植ですよ。交通事故か、もしくは脳死。(中略)書類では、ドクターが何月何日に確認しました、家族が同意しました、と英文の書類が出て来るんです。その書類を持って日本の病院にも出してもらいたいし、もし周りで聞かれたら、『死体移植だったよ』『何月何日に死んだ方から私は腎臓もらったよ』という形で、最後まで一貫してその形をとってもらいたいんですよ。こちらも、そのための書類も出すし。だから生きた人というのは厳禁というか、一切出さないということで進めてもらいたい》