2億円近くする横浜市の邸宅に、溺愛する白の大型犬や猫に囲まれて1人で暮らす、メガネをかけた初老の男。一見どこにでもいそうな風貌のこの男が、日本初となる海外での臓器移植斡旋の容疑で逮捕されたのは今年2月初旬のことだった。(全4回の1回目/#2、#3、#4を読む)
肝臓移植を希望する40代日本人男性にベラルーシへ渡航させ、無許可で移植手術を受けさせたとして臓器移植法違反の疑いで逮捕されたNPO法人「難病患者支援の会」理事の菊池仁達容疑者(62)。
事件の経緯はこうだ。菊池容疑者は、肝硬変を患っていた日本人男性に「(検査結果が)ギリギリの数値だから早くした方がいい」などと移植手術を促し、費用として計3300万円を振り込ませた後に、2022年1月に男性をベラルーシに渡航させた。
「患者が払った8200万円のうち5000万円が菊池容疑者の懐に」
男性は2月に現地で肝臓の移植手術を受けたものの、手術後に体調を崩し、帰国経由地のフィンランドの病院に入院。帰国後は家族から改めて生体肝移植を受けたが、その年の11月に帰らぬ人となった。菊池容疑者の「難病患者支援の会」の紹介で海外で手術を受けて死亡したケースが他にも明らかになっている。全国紙の社会部記者が解説する。
「難病患者支援の会は2007年に設立され、これまでに170件ほどの海外の臓器移植に関わっていたようです。菊池容疑者は患者に『これまでにミスが起こったことはない』と安全性を主張していたようですが、手術後に患者が死亡するケースが複数起きています。別の男性もベラルーシで8200万円という法外な額を払って手術を受け、約1カ月後に死亡していたのです。しかも患者が支払った総額8200万円のうち、手術費などで病院に払ったのは約3300万円。つまり5000万円ほどが菊池容疑者の懐に入る計算になります」
あまりにもタチの悪いこの団体に、患者たちが頼らざるをえなかった背景は何だったのか。医療関係者が説明する。
「日本国内の臓器移植の件数はアメリカの10分の1で、ドナーの数が全く足りていません。特に腎臓は移植希望の登録をしてから実際に移植を受けられるまでの待機時間の平均が15年ほどで、病状が進行する患者にとってはそれまで生きていられる保証すらないのが実情です。そんなワラにもすがる患者の思いを、菊池容疑者はターゲットにしていたんでしょう」