小沢さんの菊池容疑者らへの不信は募っていく。手術後には、難病患者支援の会のコーディネーターが「キルギスの現地警察が動き始めた。エジプト人医師との連絡もつかなくなった」と慌てだし、小沢さんら患者たち、難病患者支援の会のスタッフ一同は警察の目を逃れて一度ウズベキスタンに移動した。
そして年が明けた2022年1月、ついに小沢さんは移植を諦め、手術をした日本人女性らと共に帰国することを決めた。菊池容疑者は不安を募らせる患者たちをなだめようと、小沢さんには「日本人女性はあと2週間で良くなるから心配ない」と伝えていたが、現実は非情だった。
「女性は飛行機に乗る前から顔が土気色で歩くこともできませんでした。成田空港に着くと救急車で千葉の病院に運ばれ、結局、キルギスで移植した腎臓は摘出されることになりました。日本の医師は摘出後、『腎臓が溶けていた。あと1時間遅ければ死んでましたよ』と言ったそうです。そもそも女性は手術後に意識を取り戻したときも、『痛くて歩けない』と訴えていました。それに対して菊池は『本当に痛いの?』と信じず、『おしっこが出るようにするため』と無理矢理歩かせていたんです」
「『生きられて5年』と言われた貴重な時間を浪費させられた…」
結局、キルギスへの“移植ツーリズム”では少なくとも日本人1人を含む3人が死亡したことになる。小沢さんは怒りに震えながらこう話す。
「『生きられて5年』と言われてから既に3年経ちました。その貴重な時間を悪質な業者に浪費させられたことに怒りが収まりません。募金だってラグビーの教え子や父兄だけでなく、『がんばれ小沢克年』『ラガーマン』と匿名でお金を振り込んでくれた人も含め、みんなの善意で集まったものなんです。だから絶対に金は取り返したいと思っています」
臓器移植の斡旋で逮捕されたのは国内で菊池容疑者が初めてだが、巨額のお金を仲介業者に払って手術のために海外へ渡航し、臓器売買に関わる患者は後を絶たない。自らの命の危険が迫る中で、グレーな方法に手を出さない確信がある人間などどれほどいるものだろう。こうした現状について小沢さんは今、何を思うのか。
「海外でのグレーな移植が横行しているのは事実ですが、国内では命が助からない患者が多くいるのも事実です。ドナーが増えてほしいとは思いますが、僕だって23歳の息子や20歳の娘たちが脳死状態になった時に、腹を開いてその臓器を『さあどうぞ』とできるかは自信がない。僕自身はそれを赤の他人に求めているというのに……。僕は自分が死んだら角膜でも肝臓でも何でも使ってくれと思うようになりましたが、それだって家族の同意がなければ認められない。だから本当にどうすればいいのかはわかりません」
小沢さんは現在は透析治療を続けつつ、次の一手を決めかねている。募金についてはひとまず、今後訴訟で取り返すための準備を進めているという。回復の道が見えない患者たちにとって、臓器移植は唯一の希望の灯といえるだろう。こうした患者らを食い物にしてきた菊池容疑者の犯行は、到底許されるものではない。
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