祖父母に引き取られるまで、フナイムさんは、父の言動に耐えてきた。

「ずっと父の顔色を窺っていたと思います。そうすると、イライラしましたが、遊ぶことでストレスを解消しました。中学まではずっと我慢。とにかく我慢でした。“言い訳をするな”と言われていたためか、引っ込み思案にもなりました。そんな時代のことを忘れるしかなかった。だから今思い出そうとしても、思い出せない。ただ、感情の起伏は激しかったですね。学校内では喧嘩をけしかけていました」

警察からの電話に父の“声マネ”で対応

 そんな中で万引きや自動車盗、酒、タバコ、競馬を覚えていく。

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「高校1年のとき、場外馬券場に3~4人で行ったのですが、警察に声をかけられました。親に電話をしようとしましたが、父にバレたら大騒ぎになります。そのため、“親は今の時間家にいないので、○○時になったら電話をしてくれませんか?”と言いました。

 時間になると警察から電話があり、まずは自分が出ました。そして保留にして、“父”に代わったふりをしました。声マネをして、警察の対応をしました。この頃、演劇を目指していたのもありますが、考えてみれば、そこから詐欺みたいなことをしていましたね。子どもの頃から逃げ癖がありましたし」

 逃げ癖。父との対立で逃げ、仕事がうまく行かず、詐欺に逃げる。そんな逃げ癖のせいでフナイムさんは特殊詐欺へと導かれたのだろうか。

「逃げ癖は永遠のテーマです。そのため、立ち向かって行きたい。怖がらずに、前を向きたい」

「なんで、なんで」と自問自答の日々

 そんな“逃げ癖”と立ち向かえたのは、受刑中のことだ。高校中退だったフナイムさんは、高卒認定資格を取ることを目指した。あと2教科必要だったが、「地学基礎」と「倫理」を選択した。そのほか、輸入の仕事をしたいと思っていたため、英語と韓国語、また通関士の勉強も始めた。受刑中は毎日、日記をつけた。

ノートを読みながら取材に応じるフナイムさん

「倫理の教科書を読んだのですが、最初は色々な哲学者の言葉を見て、“なんだ、これ? 綺麗事ばかり言いやがって”と思っていました。でも、刑務所内は暇です。やることがないので、仕方なしにテキストを読みました。数ヶ月後、“僕はなんでこの人たちとまったく違う考え方なんだろう”とか“どうして昔からこういう考えをしているんだろう”などと自問自答するようになったんです。なんで、なんで、なんで、と掘っていく作業をはじめたんです。

 突き詰めた結果、自分中心的で、利己的な自分にぶつかった。すると、心当たりが出てきました。祖父母への態度、友達への態度、すべてがそうだと思いました。最悪な人間だった。人に散々迷惑をかけて、人のせいにしてきたと思ったんです。“僕はクズであり、ゴミだ、だからここ(刑務所)にいる”と思い、自己嫌悪で、過去の自分を殺してやりたいと思ったんです」