妻から届いた“離婚してください”との手紙
そんな受刑中を支えてきた妻から、19年、離婚届が送られてきた。前を向いて生きようとしたときに一つの試練が訪れた。
「家族のために頑張ろうと思っていたところ、結婚記念日の直前、敬語で書かれた手紙が届いたんです。“離婚してください”とありました。“待っている”って言ったじゃないか、とその時は思いました。もう絶望でした。しかし、刑務所内で本を読んでいて、“執着は苦しみしか生まない”ということを知りました。だから、離婚は苦しかったけれど、なんとかどん底をクリアしました。
ただ、一つの宗教を信仰するということはないです。聖書や『山陰中央新報』の中村元さんの思いを受け継ぐ連載などを読んで、“自分がされて嬉しいことは他人にしなさい”など、いろんな言葉を知りました。それらの知識が今の自分を形成しています。正直に誠実に生きると刑務所の中で決めました。元受刑者として、正直が一番です。
逮捕されるまで嘘をついてきました。正直に生きると楽です。自分中心じゃなく、人のために生きると幸せになれる気がします」
うつ病になってわかったこと
刑期を終えた後、一時、うつ病になった。そこでさらに、考え方が変化していく。
「うつ病になってわかったことがあります。“人が嬉しいと思うことを人のためにする”と思い、出所してもそうしていました。でも、自分のことを疎かにしていたんです。自己犠牲をしてまでやっていた。自分のことはどうでもいいと。というよりも、自分のことを考えていなかったんです。
うつ病になって、“自分のことを大切にしてください”、“自分のこと、大切にしてなさすぎだよ”といろんな人から言われたんです。つまりは、逮捕前は自分のことしか考えていなかった。刑務所で勉強して、今度は人のためしかできなかった。だからこうなったんだと思いました。そのため、人が喜ぶことを、人のためにも、自分のためにもやればいいんだと気づいたんです。その先に今の防犯活動があります」
現在は、Twitterの音声の機能、スペースを開くことがある。そこでは、詐欺の被害者と話すこともある。
「元受刑者がメディアに出ていることで、いろいろ言ってくる人たちがいます。そのため、直接意見を聞くことにしました。感情的になったこともありました。自分が関わっていない詐欺事件の被害者の方とも話をしました。
詐欺の被害者と直接話せるのは貴重な機会です。何を望んでいるのか、何をしていいのか、という思いが伝わってきました。自分の方向性がまだぼんやりしていて、定まっているわけではないですが、加害者を増やさないこと、そして再犯防止につながればよいと思っています」
写真=渋井哲也