「誰ともしゃべるな、行事にも参加しなくていい」
札幌高裁(長谷川恭弘裁判長)の判決や遺族によると、13年1月末、悠太さんと他の部員との間にメールトラブルがあったが、学校側は悠太さんのみを指導対象とした。悠太さんに対して、連絡網以外のメールを禁止とした。顧問は他の部員に対して「悠太と関わるな」と指示した。さらに2月、別の問題が生じた。顧問は「悠太が嘘を吹聴した」と決めつけ、自殺前日の指導となった。
指導場所は音楽準備室。上級生の部員4人を立ち会わせた顧問は、事実確認をせず、「何のことかわかっているな?」「俺なら黙っていない」「名誉毀損で犯罪だ」などと叱責した。その上で、「誰ともしゃべるな、行事にも参加しなくていい」などといい、退部するかどうかの選択を迫った。
「悠太にとって、大切な人たちとのつながりは『吹奏楽』でした。重きをおいていた部活動を自分の意思ではなく退部に追いやられる恐怖、大切なものを失うことは、その先の未来を失うことにつながると思います。前日の指導では、顧問のほか、先輩の部員も立ち会いました。尊敬するパートの先輩も含まれていました。そうした顧問側につくことは絶望感を与え、混乱を招く行為だったと思います。
最後には、唯一許されていた部内の連絡網の返信すら、『お前はしなくていい』と関係性を絶たれました。そして、『あとの条件は明日先輩から申し渡すから、明日来い! 今日はもう帰っていい!』として帰されました。こんな一方的な指導だったのに、保護者に一切報告はありませんでした」(綾華さん)
顧問の指導によって悠太さんは孤立した。親友の部員とも会えなくなった。
「親友の部員は『冷静に考えたら、俺だけは悠太との関係を切ってはいけなかった。でも顧問からは“まさかお前は連絡取ったり会ったりしていないよな!”と確認までされました。連絡取ったりしていることがバレたら、また条件を破ったと怒られる。どうしたら良いか判断がつかなかった』と言っていました。
悠太は前日から、親友の部員と連絡を取りたがっていました。でも、そんな指示が出ていたとは知りません。関わりを絶たせるような顧問の指示が悠太を自殺へと追い詰めたと今でも思います」(同前)
裁判所は前日の指導を問題視
児童生徒が自殺した場合、学校や教育委員会は「子供の自殺が起きたときの緊急対応の手引き」や「子供の自殺が起きたときの背景調査の指針」(改訂版)を参考に、「基本調査」や「詳細調査」を行う例が多くなっている。しかし、悠太さんが亡くなったとき、第三者による調査の設置はなかった。
「『指針』などの説明も協議も一切ありませんでした。学校との交渉が行き詰まるなか、開示を求めて受け取った資料には、『顧問が意図していた指導内容が的確に伝わっていなかったと推察』とありました」(同前)