「悠太が亡くなって初めて『生徒指導提要』を知り、読むと、きちんとした事実確認を前提とする指導の手順が例示されていました。そのほかの内容も非常によいもので、『ちゃんと普及されていれば十分、弟の自殺を防げた』と思いました。
そのため、改訂の話を知った時、よりよいものになって欲しい気持ちで要望書を作ろうと思いました。結果、改訂版に『不適切な指導』が入りました。永岡桂子文科大臣にも面談することができ、『指導死をゼロにしたい』と言っていただいたことはびっくりしました」(夏希さん)
「理不尽なルールが当たり前になっていることを自覚できません」
悠太さんが追い詰められた背景には「部則」の問題がある。「部の決まり」といった細かなルールが100以上もあった。1月末のメールトラブルによる指導後、関係が悪化した同級生の部員に対して隠し事をしないようにした。そのため、部則で禁止する「部内恋愛」をしていた過去を伝えた。しかし、聞いた部員は、これまでの顧問の指導によって、部則違反だから顧問に伝えないといけないと考え、顧問に話した。
「生徒指導提要」(改訂版)では「校則」の問題点が指摘された。同じように「部則」に関連した指導も生徒を追い詰める理由になる。
「入部のときに先輩から口頭で言われ、手書きで『部のきまり』を書かせられていたことを、悠太が亡くなって知りました。とても細かく決められていて驚きました。部員たちは細かい『きまり』に適応しようとする中で、顧問は『部則違反はすぐに報告するように』と言っていたのです。
部則には影響力があります。校則と同じで、部則も外部に見えるようにしていかないと、理不尽なルールが当たり前になっていることを自覚できません。細かすぎる『部則』は、普通では起きない対人関係のトラブルや、普通だと説明できない指導に発展する場合もあるのではないでしょうか」(同前)
旭川市のいじめ自殺事件とともに取り上げられると一転
高裁判決後、最高裁への上告ではなく、遺族は北海道教委との話し合いの道を選んだ。道教委は当初、遺族との面談を拒んでいた。しかし、道議会文教委員会で、旭川市のいじめ自殺事件とともに、この問題が取り上げられると対応は一転。生徒指導・学校安全課長と遺族が面談することになった。
「高裁判決の際、裁判長は『児童生徒の自殺という悲しい出来事が繰り返されないように、教育の現場において専門家との連携した最善の対応が行われることを願っております』と言葉を添えてくれました。
道教委側も判決を『厳粛に受け止める』とのことでしたので、真摯に向き合ってくれると思っていました。しかし、道教委は、事故報告書で、未だに『指導は適切』『(自殺の理由は)不明』との見解を示していることを昨年知りました。まだ、やることが残っていると思っています」(綾華さん)
21年9月24日、初めて両者は面談を果たした。23年になってから、道教委は、生徒指導のパンフレットを作成することを決めた。悠太さんが受けた「不適切」「不合理」な指導をどうとらえていくのかは未知数だ。
不適切な指導による児童生徒の自殺は「指導死」と呼ばれる。「生徒指導提要」(改訂版)には、不適切な指導に関する課題が示されたが、10年を経て、遺族の叫びはどこまで届くのか。