フホーは技能実習生よりも数が多い
なんとも奇妙な共生関係が成り立ってしまっているのだが、だから鉾田やその近辺の鹿行地域では、そこらへんの農家にも飛び込みでフホーがやってきて「なんか仕事ないですか」と笑顔で尋ねてきたりする。僕なんか鹿行地域の某所で、一面の畑の緑があまりに見事で思わずカメラを構え、そばで農作業をしていたおっちゃんに「写真撮っていいっすか?」と尋ねたら、
「いいけどよ、奥のほうで働いてんのフホーだから。カメラ構えたら逃げっかもな。ワハハハ」
という返事でアゼンとしたことがある。それほどまでにフホーはカジュアルな存在なっているのだ。浜田さんの推測では、「茨城の技能実習生は1万5000人ですが、フホーはそれよりたくさんいるかもしれない」という。フホーにはベトナム人が多いが、ほかの国籍もいる。逃亡実習生もいれば、元留学生も、難民申請経由から移行した特定活動(編集部注:特定活動は原則として週28時間以内だが就労もできるし、故郷に帰れない難民たちが日本で人生をやりなおすための、ひとつの目標ともなっている資格)の資格も切れた人もいる。そんな連中をひっくるめて「非合法な労働力」という意味で「フホー」と呼んでいる印象だ。
彼らはおもに北関東一円から流れてくる。ほかに働き場をなくした立場でも、鹿行地域の農村なら仕事があると考えている外国人は多い。水海道で大量リストラに遭った100人のネパール人たちの中にも、あるいはこのあたりで土にまみれている人がいるかもしれない。
そんなフホーが技能実習生とともに、茨城特産の野菜や果物をつくっている。東京都内のスーパーマーケットでは茨城産の品が実に多いが、そのうちけっこうな部分にフホーが携わっているのだろうか。
トイレ休憩もストップウォッチで測る
「10年以上前だと思うけど、このあたりはもともと中国人が多かったんだよ」
鹿行地域の農家、倉田順二さん(仮名)は言う。同じ技能実習生でも、ベトナムではなく中国の人々が「主戦力」だったそうだ。
「でも、中国はだんだん経済成長してったでしょう。だから若いのが来ない。それに、扱いや待遇が悪くて逃げちまうんだ」
鹿行地域の中国人実習生については、残業代の未払いで裁判沙汰になったこともある。残業代が規定よりもはるかに安かったというものだ。2018年に下った判決では実習生側の訴えを認め、未払金の支払いを命じたが、これを受けて「そういや俺も」と残業代未払いを申し出る実習生が続発。だが農家の中には「安くてもいいから残業させてくれって頼まれたからだったのに、どうして」と、いまも疑問に思っている人もいる。
「中国は経済発展とともに労働意識も高まっていった。だからこういうことも起きる。それなら次は、なんの知恵もないやつがいい。それでベトナム人に移り変わっていったんです」