賃金の未払いや人権侵害、劣悪な労働環境などを理由に職場を失踪する技能実習生は後を絶たない。技能実習生の立場を捨て、「浮遊する労働力」となった“逃亡実習生”たち。彼らはいったいどのような暮らしを送っているのか。
ここでは、フリーライターの室橋裕和氏が、数多くの外国人コミュニティが点在する国道354号線沿いを回りながら、各地の異国メシに舌鼓を打ち、現地の人々に取材を行った『北関東の異界 エスニック国道―絶品メシとリアル日本―』(新潮社)の一部を抜粋。逃亡実習生問題のリアルに迫る。(全2回の2回目/前編を読む)
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生き抜くために「ボドイ」になる
逃亡実習生たちの最大目標は「稼ぐこと」だ。もはや雇い主や組合を気にする必要もないからと、犯罪もいとわなくなる。やはり実習先の農家から逃げてきたベトナム人男性フックさん(仮名)が言う。
「口座を売ったり買ったり、あとタクシーやってお金もらったり。盗んだものを買ってくれるベトナムのレストランや食材店もある」
タクシーというのは白タクだろう。それにギャンブルもやたらと多いそうだ。知人間のバクチにこっそりお金を賭けるのは日本人と同じだが、ベトナム人はその結果として多額の借金を抱えたり、取り立てるために拉致監禁したり、傷害事件になったりもする。農作物の盗難も多い。盗難車の無免許運転なんて珍しくもない。実習生時代は自転車だったが、逃亡したらクルマでかっ飛ばすのだ。2020年には、やはり354沿いの群馬県・太田市でベトナム人が豚を盗んで解体したとして逮捕される事件があったが、茨城でも根っこは同じだ。技能実習生の立場を捨て、「浮遊する労働力」となったベトナム人が、生き抜くため、それに稼ぐために手段を選ばなくなっている。
ビニールハウスの中で酒盛り
彼ら逃亡実習生は自らを「ボドイ(兵士)」と称し、日本各地でこっそりコミュニティをつくっているという話が話題になったことがあるが、茨城でも同じだ。フックさんがある動画を見せてくれた。
「これ、近くのビニールハウスの中」
50人ほどだろうか。20代、30代と思われるベトナム人の男女が酒盛りの真っ最中であった。みいんなボドイ、逃げ出した元実習生だが、中にはクルマ泥棒とか、無免許運転で当て逃げしたままのやつも混じっているという。その割になんだか堂々としている。フックさんが笑う。
「このすぐそば、警察署ある」
ボドイたちは警察上等なのか、そして警察は彼らの存在を知らないのだろうか。