実習生が日本語を学ぶことをよく思わない農家
しかし実習生への待遇は変わらず劣悪なところが目立った。前出の浜田さんが言う。
「問題があまりに多いことから、技能実習法が新しく制定されて、2017年に施行されたんです。その前は、人間扱いされていないような実習生もたくさんいました」
技能実習法では暴行や脅迫といった人権侵害行為に対して罰則を設けたこともあったし、実習生の置かれた実情をクローズアップする報道も増え始めたことから、全国的にコンプライアンス意識は高まっていった。
「でも、このへんは昔のままなんだ」
倉田さんが言う。
「最低賃金も雇用契約書も守らない。今月は半分休みでそのぶんは給料払いませんとか、それじゃ実習生だって生活できないでしょ」
以前は「知恵」をつけさせないためにスマホを取り上げる農家もあった(現在は違法)。SIMカードを売っているエスニック食材店に農家から「やめてくれ」と抗議が来たりもした。
それにいまも、実習生が日本語を学ぶことをよく思わない農家がある。言葉を覚えたらいろいろな情報を集められる。もっと待遇のいいところに逃げられるかもしれない。日本人に何か相談するかもしれない。それを恐れている。茨城でも外国人の増加を受けて、自治体や民間でいろいろな日本語教室が開かれているのだが、ここに実習生の姿はない。ある日本語教室の方は、「オープンしたときに農家もだいぶ回ったんですが、いまのところ実習生は誰も来ません。農家のほうから『行くな』と言われている場合もあると聞きます。そんな暇があるなら働けと」とため息をつく。
「就職しに来たわけで、奴隷になりに来たんじゃない」
フックさんが実習生として働いていたのは「体罰あり」の農家だった。ことあるごとに暴力を振るわれた。
「風邪ひいて熱があるのに、いちごのハウスで作業やらされた」
夏場のビニールハウスの内部は40度を超えることもあり、ほとんどサウナだ。熱があるのにそこに叩き込まれた。トイレに行くときも、ちょっと水を飲もうと手を休めたときも、農家のオヤジがすっ飛んできてストップウォッチで時間を測る。そのわずか数分のぶんを、給料から差っ引くのだ。なんともせせこましいのだが、「それは外国人だから、じゃない」と倉田さんが話す。
「日本人の働き手に対しても、そういうことをする。私は一時期、別の農家で働いてたことがあるんだけど、本当にしんどかった。就職しに来たわけで、奴隷になりに来たんじゃないと思ったね」
僕は群馬で聞いた話を思い出していた。外国人を酷使するような工場は、日本人従業員にもきつく当たる。どうやら農家でも同じようなところがあるようだ。