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「失踪したら、鉾田に行け」

 やりたい放題ではあるのだが、一方で彼ら逃亡実習生は、地元の一部の日本人にとっては相変わらず「貴重な労働力」なんである。技能実習生という立場でもなく、日本の滞在期限をとっくに過ぎたオーバーステイだってたくさんいるのだが、それでもおかしなことに茨城の農村には仕事がある。雇っちゃう農家が多いのだ。浜田さんが言う。

「知ってますか。『失踪したら、鉾田に行け』って、ベトナム人の実習生たちの間で合言葉のように言われてるんです」

 茨城県内でもとりわけ農業がさかんな鉾田などの地域では、逃亡実習生でもオーバーステイでも働き口がある。収穫や梱包、荷運びなどなど、農家の下支え的な仕事だ。技能実習生となんら変わらない作業なのだ。フックさんが笑う。

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「私が働いてる農家、実習生もいる。私みたいなフホー(不法就労者)もいる」

 ベトナム人というのは同じだが、かたや合法、かたやフホーの労働力が同居しちゃってるのである。

実習生よりも稼ぎが良い不法就労者

 彼らフホーは、農家にとっては実はありがたい存在なのである。繁忙期だけ働かせることができるからだ。技能実習生の場合、基本的には3年間の契約で、当たり前だが雇用し続ける必要がある。その間コストがかかる。しかしフホーは、この作物の収穫期だけとか、夏の間だけとか、そういう使い方ができる。法律なんか関係ないので時間も無視してガンガン働かせても、そのぶんキッチリ給料を払えばいい。もちろんアシのつかないニコニコ現金払いだ。

 フホーのほうも「いつ捕まって国に返されるかわからない」ので、いまのうちに稼ごうと、危機感を持ってマジメに働くのである。だから農家のほうは、実習生よりもむしろフホーを大事にすることがある。

「フホーを粗末に扱ったら、逃げられて通報されますからね。それもあってフホーのほうが立場が強かったりします」(浜田さん)

 実際、フックさんは月によっても違うが稼ぎはだいたい25万円前後。「30万円、40万円くらい稼いでるフホーもいるって聞いた」。実習生よりぜんぜん割がいいのだ。そして農家としては、フホーはフレキシブルで便利な働き手というわけだ。