1987年(118分)/KADOKAWA/7480円(税込/Blu-ray版)

 プロレスラーの武藤敬司が引退した。プロレスを最も熱心に観ていた一九九〇年代、頂点に君臨していた選手だった。その華やかさと技巧には、東京ドームや横浜アリーナといった大会場の、どんな遠い席からでも魅了された。

 さらに凄いのは、そこから今まで約三十年間もトップを張り続け、今年も引退関連の興行で大会場に大観衆を集めていることだ。人気商売であるプロレス界において、それは前代未聞の偉業である。

 そこで今回は、そんな武藤が若手時代に主演した映画『光る女』を取り上げる。

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 武藤が演じるのは、婚約者(安田成美)を連れ戻すために北海道の山奥から現れた仙作。仙作は婚約者の行方を知るという謎の紳士(すまけい)に言われるまま、地下格闘技に身を投じる。都会に全く合わない、髭面で筋肉隆々の姿は「まるでキングコングのよう」と言われる通り、ワイルドそのもの。少し後に「セクシャル・ターザン」と称されることになる武藤の野性的な魅力を堪能することができる。

 だが、それ以上に楽しいのが、Blu-rayに特典映像として収録されている、メイキング映像だ。演技は完全に素人の武藤に対する監督は、相米慎二。新人俳優に対する厳しい演技指導で知られる相米が、武藤に対しても容赦しなかった様子が見て取れる。

 だが、武藤は全く臆しない。セリフすらままならないのに、「やるからにはパーフェクトを目指したい」と相米に平然と言ってのけてしまうほどだ。

 撮影の合間の下川辰平との歓談も凄い。「役者的な心があるのかもよ」と褒める下川に対し、なんと「役者って嫌な商売だね。俺はなんか性に合わない」と言い放つのだ。

 ピリつく空気。武藤もさすがにマズイことを言ったと思ったのか、「あ、失礼なこと言っちゃった」と笑う。だが、続いて「自分で感じたこと言っちゃっただけです」とフォローのつもりが火に油を注いでしまう。その言葉に一切の悪気はなく、爽やかに言っているものだから、下川も最後は「君といると心強いよ」と笑うしかなかった。

 そんな生来の陽性の持ち主を、冷徹な言葉で追い込む相米。さすがの武藤からも明るさが消えていく。それでも最終的には「芝居は段取り」「心なんて、そんな気やすく言う言葉じゃない」と、監督の言葉を全て切り捨ててしまうのだ。ヒリヒリした神経戦は、さながら上質のプロレス。

「映画を壊してやりたかった。このまんまでは言いなりになって終わるか、服従しなきゃならない」そう言って笑ってのける唯我独尊ぶりには、とんでもない大物になる片鱗が全面に放たれていた。