こうしたパブリックイメージを逆手にとり、クールさを装いたいときの小道具としてもタバコは使われてきた。『ジョジョの奇妙な冒険』(荒木飛呂彦)第2部「シーザー最後の波紋の巻」(10巻収録)で愛弟子シーザーの死を悟ったリサリサが、気丈に振る舞おうとしてタバコを取り出すが動揺を隠しきれず、「リサリサ先生 たばこ逆さだぜ」とジョセフに指摘されるのは、印象に残るタバコを使った心理表現であった。
近年生まれた「誰も傷つけない喫煙」
近年は、若い世代に喫煙を誘発する可能性や喫煙習慣による健康被害を考慮し、フィクションにおいてタバコの描写は避けられるようになってきた。その一方で、喫煙マナーに配慮した喫煙シーンが模索されているのも事実。ポイ捨てや歩きタバコなんて、もってのほか。かつてのヤンキーマンガやアウトローマンガとは異なり、非喫煙者にも配慮した「誰も傷つけない喫煙」である。
たとえば、22世紀の近未来を舞台にしたSF作品『AIの遺電子』(山田胡瓜)では、第59話「人間の仕事」(第6巻収録)で衣料品メーカー「IFDAN」のデザイナーたちが喫煙室でタバコを吸いながら談笑して愚痴をこぼし、ストレスを解消しているシーンが描かれている。近未来にも“タバコミュニケーション”があるのは興味深い。
あるいは『九龍ジェネリックロマンス』(眉月じゅん)では、スイカとタバコの組み合わせが、特定の人物を想起させる重要なキーアイテムとして作中に登場する。かつての香港の九龍城砦を思わせる猥雑な人工都市が舞台だが、屋上やベランダなど、受動喫煙に配慮された状況下で喫煙しているシーンが描かれることが多い。
こうした喫煙シーンに共通するのは、喫煙者同士のコミュニケーションを描写している点だ。
そして、その最先端をいくのが「次にくるマンガ大賞 2022」のWebマンガ部門で1位を受賞し、注目を集めている『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』(地主)である。