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『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』が描く“ニューノーマル”

 ブラック企業で働く中年の佐々木にとってのひそかな楽しみは、喫煙と、スーパーで働く女性店員・山田のにこやかな接客。ある夜、癒しを求めてスーパーに向かった佐々木であったが、お目当ての山田はレジにおらず、意気消沈して喫煙場所を探していると、山田の雰囲気とは正反対の奇抜な服装をした女性から「ここなら吸える」と声をかけられ、スーパー裏手の従業員用の喫煙所に招かれるのであった。

 この「田山」と名乗る女性こそ、山田張本人だが、そうと気づかない佐々木は、憧れの山田の素顔の姿(=田山)と喫煙所で交流を図っていくことになる。

『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』(地主)

 喫煙所というのは、非喫煙者の割合が増えた昨今では、外から隔絶された空間である点に着目したい。だからこそリラックスできるし、仕事でくたびれた姿や、すっぴんをさらけ出せる。つまり、この作品における喫煙シーンやタバコは、「カッコよさ」ではなく「飾らない姿(格好つけていない自分)」の象徴として存在しているわけだ。

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©AFLO

 従前とは、まったく真逆の機能を果たしているタバコ。周囲から隔絶された空間で、喫煙によるほっとするひととき。飾らない素の姿でいるからこそ、思わず内面を吐露してしまう。そして、期せずして秘密の時間を共有し、心理的な距離が縮まる……と、タバコの“コミュニケーションツールとしての側面”にスポットを当てたのが、令和における喫煙シーンのニューノーマルなのである。

 そんな作品たちを読んで、ひと息ついてはどうだろうか。

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銀と金 7

フクモトプロ/highstone, Inc.