ただ中国でのコロナ禍の急拡大という突発事態が原因であれば、時間が経てば状況は改善するはずだ。ところが国内で“動仕”を専門に手掛ける制作会社の経営者は「あくまで1つの見方」と前置きした上で「日本のアニメ業界がいまだに手描きの原画に頼ることが放送休止・延期につながっている」という。
「アニメ制作工程はどんどんデジタル化が進んでいますが、今でも原画の多くは紙に鉛筆で描かれたものです。しかし鉛筆のアナログな線は現在の高精細なデジタル映像に用いるには曖昧で、中割を作る際に“動仕”の業者が修正する必要がある。原画の枚数が足りないことも多く、それも業者が補ってなんとか自然に動いているように見せているのが現状です。原画の担当者にデジタル対応を求めたいのですが、制作本数が増えて原画が描けるアニメーターは取り合いになっており、そんな要求をしたら『別の仕事を受けるからいい』と言われてしまう状況なんです」
日本のアニメ作品のほとんどは「基準に達していません」
アニメ作品といえばジャパンカルチャーの花形という印象も強いが、実はクオリティの面で世界に遅れを取りつつあるという。
「Netflixをはじめとした海外配信大手の映像クオリティに対する要求スペックは非常に高くなっています。しかし高予算作品を除いて、日本のアニメ作品のほとんどは解像度やフレームレートの点でその基準に達していません。海外の視聴者からすると、ストーリーは良くても映像はちょっと古ぼけて見えているはず。世界基準のハイクオリティな映像を作るための原画を、日本のアニメスタジオが十分に生み出せなくなりつつあるんです」
もちろん「Netflixオリジナル」と銘打たれる高スペック作品は世界標準の映像クオリティを満たしているが、それらは年間300タイトル前後生まれる新作アニメのごく一握りだ。
さらに、アニメ制作の中で手描きの「原画」が重視され、動画や仕上げを海外に依存してきたことにも危機感があるという。
「日本のアニメスタジオのほとんどは、原画や背景美術などに特化しています。それらは確かにアニメの根幹を作る重要な仕事ですが、あくまでも中間成果物であり、そのままではアニメになりません。“動仕”があってはじめてテレビ局や配信サービスに納品できる最終成果物=アニメ映像が生まれるのです。その重要な工程を人件費が安かった海外に依存し、国内にノウハウが蓄積されていないのも非常にまずいと思います」