「家が、真っ赤っかになっとる!」
のどかな村の様相が一変したのは、その日の20時59分。
「貞森さんの家が、真っ赤っかになっとる!」
仲睦まじい夫婦が住む家から煌々と炎が燃え上がるのを目撃した近所の村人は、慌てて119番に通報した。ところが、電話を切って再び外に出ると、もうひとつ別の家が燃えていることに気がついた。
「……山本さんの家も、メラメラ燃えとる」
直後の21時5分頃、別の村人が、山本さんとグラウンドゴルフに行っていた石村さんに電話をかけていた。だが応答はない。
集落では二軒の家の消火活動が行われ、22時14分、ようやく火は鎮まった。貞森さんの家からは誠さんと喜代子さんの遺体が、山本さんの家からはミヤ子さんの遺体が発見された。誠さんの遺体は足がもげていた。消防団が焼け跡をかき分け、失われた片足を探した。
二軒が連続して燃えたことに、村人たちは皆「何かおかしい」と違和感を覚えていた。ふたつの家は70メートルほど離れていて、間に燃え移るものもないからだ。
「なんでこんなことに」
「放火じゃなかろうか」
集まった村人たちは口々にそう言い合った。とはいえ、火の消えた夜の闇の中では何かを見いだすことも難しい。翌日には現場検証も行われる。火災の原因もじきにわかるだろう。互いに、そう納得した。
「二軒の火災による3人の死亡」が「5人の連続殺人と放火」に変化した瞬間
投票場だった「金峰杣の里交流館」の、はす向かいに住んでいた吉本茜さんから連絡を受けた河村聡子さん(73歳)は、吉本さんの家で、一緒に消防団にお茶や水を出すなどの世話に追われていた。夫の二次男さんは、友人たちと愛媛に旅行中だった。
「貞森さんの家族に連絡せにゃいけんね」
吉本さんと、そんな話をしていた。
山口県警の緊急配備が解かれたのち、消防団は引き揚げ、片付けが終わったのが夜中の1時半。日付はすでに変わっていた。河村聡子さんは家に帰り、風呂に入って寝る支度をしてから、一階の居間で二次男さんに宛てて火事のことをノートに書き置きした。大変な一日を終え、ようやく二階の寝室へ向かった。
だが翌日の昼前、その聡子さんも、遺体で発見された。遠方に住む娘が自宅を訪ね、二階に血まみれで倒れている聡子さんを見つけたのだった。
昨夜から連絡がつかなかった石村さんも、その数分後、自宅を訪れた県警に遺体で発見された。すぐに、村の入り口に黄色いテープの規制線が張られた。現場検証が始まる。
「二軒の火災による3人の死亡」が、「5人の連続殺人と放火」に姿を変えた瞬間だった。
県警はこの時点で、昨晩から自宅におらず、連絡もつかない“カラオケの男”を重要参考人と睨み、その自宅を捜索。男の行方を追っていた。二台の車はガレージにある。まだ遠くには行っていないだろう。5人は全員、撲殺されていた。