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「家で寝ちょったら殺されるかもしれん」一夜にして“村人の3分の1”が撲殺…「人口12人の限界集落」で起きた連続殺人事件に“残されたナゾ”

『つけびの村』 #1

2023/03/12

genre : エンタメ, 読書

note

「放火をほのめかす貼り紙」と「不審なメッセージ」

 事件発生から4日が経った、7月25日。山中で男の携帯電話や、男性用のズボン、そしてシャツが発見された。さらにその翌日の朝、現場付近を捜索していた機動隊員が林道沿いで、異様な風体の男を見つけた。Tシャツとパンツの下着姿で、靴も履いていない。

「ホミさんですか?」

 近づきながら機動隊員が声を掛けると、男はその場にしゃがみ込み、言った。

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「そうです」

 抵抗することもなく県警の任意同行に応じ、逮捕されたその“カラオケの男”は、郷集落の住民のひとり、保見光成(ほみ・こうせい)という。

ICレコーダーに録音されていたのは

 その後、県警は山中で、側面に「ホミ」と彫られたICレコーダーを発見した。雑音の中、息を切らしたような声でこんな言葉が録音されていた。

「ポパイ、ポパイ、幸せになってね、ポパイ。

 いい人間ばっかし思ったらダメよ……。

 オリーブ、幸せにね、ごめんね、ごめんね、ごめんね。

 うわさ話ばっかし、うわさ話ばっかし。

 田舎には娯楽はないんだ、田舎には娯楽はないんだ。ただ悪口しかない。

 お父さん、お母さん、ごめん。

 お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん、ごめんね。

 ……さん、ごめんなさい……。

 これから死にます。

 犬のことは、大きな犬はオリーブです」

 保見光成の家のガラス窓にあった、この貼り紙。

「つけびして 煙り喜ぶ 田舎者」

 県警が保見を捜索している段階から、これは“カラオケの男”による犯行予告なのではないか、と騒がれていた。「放火をほのめかす貼り紙」「不審なメッセージ」などと、テレビや新聞は何度も取り上げた。

──だが、それは決意表明でもなければ、犯行予告でもなかったのである。

「家で寝ちょったら殺されるかもしれん」一夜にして“村人の3分の1”が撲殺…「人口12人の限界集落」で起きた連続殺人事件に“残されたナゾ”

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