「放火をほのめかす貼り紙」と「不審なメッセージ」
事件発生から4日が経った、7月25日。山中で男の携帯電話や、男性用のズボン、そしてシャツが発見された。さらにその翌日の朝、現場付近を捜索していた機動隊員が林道沿いで、異様な風体の男を見つけた。Tシャツとパンツの下着姿で、靴も履いていない。
「ホミさんですか?」
近づきながら機動隊員が声を掛けると、男はその場にしゃがみ込み、言った。
「そうです」
抵抗することもなく県警の任意同行に応じ、逮捕されたその“カラオケの男”は、郷集落の住民のひとり、保見光成(ほみ・こうせい)という。
ICレコーダーに録音されていたのは
その後、県警は山中で、側面に「ホミ」と彫られたICレコーダーを発見した。雑音の中、息を切らしたような声でこんな言葉が録音されていた。
「ポパイ、ポパイ、幸せになってね、ポパイ。
いい人間ばっかし思ったらダメよ……。
オリーブ、幸せにね、ごめんね、ごめんね、ごめんね。
うわさ話ばっかし、うわさ話ばっかし。
田舎には娯楽はないんだ、田舎には娯楽はないんだ。ただ悪口しかない。
お父さん、お母さん、ごめん。
お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん、ごめんね。
……さん、ごめんなさい……。
これから死にます。
犬のことは、大きな犬はオリーブです」
保見光成の家のガラス窓にあった、この貼り紙。
「つけびして 煙り喜ぶ 田舎者」
県警が保見を捜索している段階から、これは“カラオケの男”による犯行予告なのではないか、と騒がれていた。「放火をほのめかす貼り紙」「不審なメッセージ」などと、テレビや新聞は何度も取り上げた。
──だが、それは決意表明でもなければ、犯行予告でもなかったのである。