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 栗山英樹監督がこう評した4回のプレー。1死から放った打球は完全に打ち取られた一塁へのゴロだった。しかしその打球を中国の一塁手がファンブル。その隙をつくように、スイングからすぐさまトップスピードに乗せた全力疾走で、一塁を駆け抜け内野安打を奪いとった。続く2番の近藤健介外野手が右前に弾き返す。そして1死一、三塁から飛び出したのが、3番に投手と指名打者の二刀流で入っていた大谷翔平投手の左中間へのタイムリー2点二塁打だったのである。

 実はヌートバーの走塁の真骨頂が、この打ってから一塁に到達するまでのスプリントタイムにある。2022年のMLBの平均一塁到達タイムが4.47秒。それに対してヌートバーは4.28秒と0.19秒速く到達する。まさにそのミクロの差が生んだ出塁であり、日本の追加点だったのだ。7回の第5打席でも再び、一塁ゴロに全力疾走したその走塁で敵失を呼び出塁した。

攻守で大活躍だったヌートバー。走塁でも魅せた ©️鈴木七絵/文藝春秋

 3回には1死から二塁後方に飛んだ打球に猛ダッシュで駆け込んで、最後はスライディングキャッチ。このファインプレーにマウンドの大谷が大きく手を挙げて感謝の意を表すと、ヌートバーもガッツポーズで応えた。8回には自打球を当て、直後に足元を気にする姿を見せると、栗山監督が心配して水原一平通訳と2度もベンチから出てきて気遣うシーンもあった。しかし2度目には指揮官がベンチを出てきた瞬間に「大丈夫だから!」とばかりに手を振り、出場をアピール。この打席は四球を選んで出塁した。

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「史上初の日系選手選出」には、様々な声があった

 一昨年、メジャーに初昇格した25歳。若くしてメジャーリーガーという野球界のトップエリートへと上りつめても、決して真摯さを失わない。一度、グラウンドに立てば、ケガをも厭わず全力でプレーに取り組む姿に、みんなが“たっちゃん”の虜になってしまっている。

©️鈴木七絵/文藝春秋

 栗山監督が日本球界としては史上初となる日系選手としての代表入りを決めた直後には、さまざまな声があった。

「日本人選手だけでチームを作るべき」「他に代表入りさせるべき選手がいるはずだ」そんな声があったのは確かだった。