このコミュニティの最大の目的は「知識を持った仲間」として機能するところにあります。
どんなに自分に親身になってくれる人でも、その人が加害やケアについてわかっていなければ「でもそれは相手にも悪いことがあるよね」とか「そのくらいどこでもあることだよ」といったふうに加害や被害を過小評価してしまうことがあります。これは加害者の自覚を鈍らせ、自分の責任において自分の言動を選ぶという意識を失わせてしまいます。
ですから、うまくいかない苦しさや、加害者変容の大変さ、なかなか自分の変容が伝わらない苦しみを分かち合い、それでもまたなんとかかんとかやっていきましょうと応援しあえるような仲間の存在が極めて重要だと思っています。
加害者は人を傷つけてきた存在ですが、決して人間として劣っているとか、何もかも間違っている存在ではありません。間違いを冒してきてしまった一人の人間であり、助けあい、支え合える人間関係の中で、自分の過ちを認めて学び直していけるような場所が必要だと思います。
実際に、GADHAに参加したことによって、離婚はしたものの、離婚後の方が昔よりも仲良くなり週末には子どもも含めた家族と一緒に暮らしている人もいます。児童相談所や警察が来るレベルの加害を行っていたが、トラブルなく家族と暮らせるようになった例もあります。
「加害者なんて言われたくない」と思うのではなく…
――最後に、「99%離婚 モラハラ夫は変わるのか」を手に取る読者のみなさんへ、メッセージをお願いいたします。
中川 この本が「自分はモラハラ・DV加害者だと言われたけれども、そうとは思えない。それでも一応読んでみるか」というような人に届いてほしいなと思っています。
この本を読めば、DVが身体的・物理的なものに限らないことがはっきりとわかると思います。そして、自分の養育環境や学校や職場では当たり前だったコミュニケーションが暴力と認識される場面があることもはっきりとわかると思います。
大事なのはその時に「このくらい自分にとっては普通で、傷つくようなことじゃないんだから、加害者なんて言われたくない」と思うのではなく「これによって傷つく人がいるんだとしたら、自分は人を傷つけてしまってきたということだ。自分を傷つけてくる人と一緒に生きていきたいと思う人なんていない。だから、大切な人と生きていくためには、自分が加害をやめて、ケアができる人間になる必要があるんだ。そして、それは可能なのだ」ということを知ってほしいと思います。
人は学び変わることができます。失敗することもあります。でも、知識を持った仲間と共に、弱音を吐きながら、愚痴をこぼしながら、支え合いながら、変容を認め合い、励まし合いながら、変わっていくことができます。
どうか一人でも多くの人が「自分に変えられる部分がある」と信じ、GADHAや、他のDV加害者向けのプログラムやコミュニティにアクセスされることを、心から願っています。
INFORMATION
『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』(原作:中川瑛、漫画:龍たまこ、KADOKAWA)発売中。
『孤独になることば、人と生きることば』(中川瑛著、扶桑社)3月29日発売予定。コミックでは描けなかった詳細な「加害とは何か、ケアとは何か」の具体例、「加害とケアの背景にある信念・考え方」「変容のプロセス」などを紹介する本。