大手商社に勤める高学歴エリートサラリーマンの翔。結婚して5年になる妻の彩は専業主婦だ。「妻は少々どんくさいが、いろいろうまくいっている」はずだったのに……ある日、帰宅すると自宅は真っ暗。彩は娘の柚とともにいなくなっていた。
コミック『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』(漫画:龍たまこ、KADOKAWA)は、「モラハラ加害者は変わることができる」という原作者・中川瑛さんの想いのもと、とある夫婦それぞれの視点からモラハラの加害と被害を描き出した作品だ。
ここでは、自らも実際にパートナーに加害をしてしまった過去があり、「モラハラ、DV加害者のための変容支援コミュニティ」GADHAによって変わることができた中川さんに、加害者の心理や「どう変わるか」について聞いた。
◆◆◆
加害者の心理を描く作品にした理由
――被害者の葛藤を描く作品は多くありますが、加害者の心の内を描いた作品は珍しいなと思いました。加害者側からの声を作品にすることになったのは、どうしてでしょうか。
中川瑛(以下、中川) ここ数年で、モラハラや精神的DV被害者の方々に関する情報が、実にたくさん共有されるようになりました。SNSやwebだけではなく、テレビでも被害が語られるようになり「私が受けていたのはDVだったんだ」「フキハラ(不機嫌ハラスメント)やモラハラと呼ばれるようなものなんだ」という形で、認識が進んできました。
その時、大前提になるのは「加害者は変われない」という考えです。
加害者は変われると思っている被害者の多くは「自分がもっとうまく接することができれば」と自分を責めたり、責任を強く感じて(加害者との)関係を終了せず、それゆえに被害が延長してしまうという問題があります。
ですから、言論空間やSNSにおいては、基本的に「加害者は変われない」というメッセージが発信されてきました。こういった社会問題はまず被害者側の声が可視化され、被害者を最優先にした情報が提供されることが必然的だからです。
一方、被害者の声が可視化されれば、加害者に自分を加害者だと自覚させることにもなります。
自分が加害者であると自覚した人は、モラハラやDVといった言葉を調べて、自分に当てはまるか確かめたりします。その際、出てくる情報は基本的に「加害者は変われない」「(加害者は)パーソナリティ障害」といった内容であり、「変われないくらいならいっそ認めない」となってしまいます。
それほど、モラハラ・DV加害者は「どうしようもない生まれついてのモンスター」として描かれていることが多いのです。
しかし、加害者の多くは「自分は正しいことをしている」「教えてやっている」「良かれと思って」という気持ちで加害をしています。「傷つけてやる!」という気持ちでやっている人ばかりではないのです。ただし、それは決して加害の責任を免じることではなく、むしろそれこそが加害の本質だとすら言えることは強調しておきたいと思います。
僕自身もモラハラ・精神的DVをしていた人間ですが、学び、変わっていくことによって、妻とはお互いに今が人生で一番幸せだと言い合える関係になりました。
人は変わっていけます。ですが、少なくとも現代のモラハラ・DVの問題においては、そのことは全く語られてきませんでした。いま、被害者の方々の声が可視化されていく中で、ようやく加害者の心理や、加害者の変容について語って良い時代になりつつあるのではないかと思います。
そこで、本作のように加害者自身の心の痛み、未熟さ、足りていない能力などの加害者の心理を生々しく描き、その上で、加害者が失敗したり、良くなったと思ったらまた失敗して傷つけてしまったり、学び変わっていくプロセスを、リアリティをもって描きたいと思いました。
実際、そのような物語はGADHAのメンバーも、僕自身も、持っています。特定個人のストーリーを漫画にしたわけではありませんが、多くの人が通ったプロセスを描けたと思っています。