「貧乏癖」を付けるな
角田 いま値上げがすごいですけど、影響はありますか。
丸岡 原価が上がるのは仕方がないのでその分は値上げします。そもそも値段で勝負していませんので。
角田 商品選びの基準は、どんなところにあるんでしょう。
丸岡 基準は、至ってシンプル。「本当においしいものだけを売る」ただそれだけです。商品を選ぶ時は4〜5人で話し合って「おいしい」と自信を持っておすすめできる自慢の一品、みんながどうしても欲しがるものを取り揃えています。
角田 セレクトショップみたい。
丸岡 はい。ここにお店を出す際「イオンの隣に出店するなんて無謀だ」とたくさんの方からご心配いただきました。でも、端から大型スーパーと競争する気はありません。うちはニッチ産業、隙間産業です。コンビニやスーパー、ドラッグストアが溢れているこの国の隙間は何かというと、「おいしいものを売る店がない」ということでした。
角田 本当にそうですね。
丸岡 逆にいえば、お客さん側も「おいしいかどうか」で食材を選んでいる人がじつに少ない。食べてみれば違いは明らかなのに、食べてみることすらせず、「安さ」だけで判断する人が多い。
角田 そう思います。100円ショップが流行りだした頃から、何か買ってすぐ壊れちゃった時に、「安かったからしょうがない」という気持ちが、みんなの中に芽生えた。「安物買いの銭失いだ」と昔は思っていたのに、「しょうがない、安いんだから」という諦め方を日本の人が覚えてしまったのは、この数十年の、すごく悲しい変化だと思います。
丸岡 「ディスカウント」という言葉に象徴されています。たくさん作ってたくさん売ってたくさん儲ける。お客さんの幸せや健康はあまり考えられていないように感じます。スーパーは、大量に作ったものの処分屋に成り下がってしまいました。
角田 私は格差がすごく広がっている気がして。ちょっと高くてもいいものを買う層はバブルの頃より確実に増えたけれど、同時に、値段で判断してしまう層もすごく増えて、差が開き続けている印象がある。
丸岡 ええ。バブル後30年続いたデフレの影響だと考えています。他の先進国では平均賃金が増加しているのに、日本はちっとも上がっていません。OECDの調査では、1位のアメリカとは400万円以上も差があります。
角田 そんなに……。
丸岡 日本は豊かになっていないし、給料も増えていない。だから節約しなきゃと「貧乏癖」が付いてしまった。スマホにゲームに、買いたいものはたくさん出てきますから、食べものは後回しです。
角田 悲しくなりますね。
丸岡 医学が飛躍的に進歩しても病院の数は一向に減る気配はありません。「医食同源」は疑いようのない事実なのに、忘れられています。本当は、どの薬が効くかよりも、ふだんから何を食べるかが大事です。
角田 じつは私も、小説のために食養生を勉強したことがあります。「食が人間をつくる」という基本は同じなんですよね。
丸岡 「食べものは、安さ便利さで選ぶな」。これが基調となる考え方です。利益ばかり追求した商品と食べる人のしあわせを思って作られた食材とでは、舌で感じる「おいしさ」がまったく違う。
まるおかの商品は、野菜や米や果物は無農薬や減農薬、加工品は無添加のものが多い。ただ、初めからそこにこだわっていたわけではありません。自分の舌で「おいしい」を追求していくと、おのずと安全がついてくるのです。
角田 おいしくて安全な食材の選び方、知りたいです。
丸岡 はい、ご案内します。
◆
丸岡守社長と角田光代さんの対談「安全な食材の選び方」全文は、月刊「文藝春秋」2023年4月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。
安全な食材の選び方