それを見て「生放送を成功させるためにこんなに頑張ってくれているのに、私は自分のことしか考えられていなかった。私なんかが濡れるとか気にしてる場合じゃない」って急に恥ずかしくなって。「今日はテレビの前の何万人じゃなく、目の前にいるこの3人のために頑張ろう」って決めたんです。
そのあとは、なんとか無事に生放送を乗り切りました。その先10年間のアナウンサー人生を振り返っても、あの日を超える緊張感や達成感はなかったような気がします。
「みんな私をどう思ってるんだろう」社内の廊下を歩くだけで緊張
——悪天候というハプニングはありつつも、順調な滑り出しだったんですね。
宇賀 それでも、入社してから1ヶ月くらいは緊張で毎日食べ物が喉を通らなくて、4キロも痩せてしまうくらい追い詰められていました。「早く認められたい」と焦る反面、「誰にも見つかりたくない」みたいな気持ちもあって、毎日精神的に不安定でした。
だって、まだ直接お話ししたこともない先輩方がたくさんいる新人が、入社1日目から番組を担当していたんですよ。実際誰かに何かを言われたことは一度もないのに、ただ自分で勝手に「みんな私をどう思ってるんだろう」「快く思ってないんじゃないか」って身構えてしまって。社内の廊下を歩くだけで緊張して、ずっと俯きながら逃げるように歩いていました。
アナウンサーになる覚悟ができた出来事
——エッセイの中で、入社3日目に「アナウンサーの洗礼を受けた」と綴られていましたよね。
宇賀 お花見ロケに行ったとき、たくさんの人がいる中で撮影の準備をしていたら、ものすごい至近距離でカメラを向けられたんです。もちろん私が誰かなんてみんな知らなかっただろうから、ただテレビの撮影に興味があったのだと思います。それでも、つい数日前までただの大学生だった私は、戸惑って俯いてしまって。
すると当時のディレクターさんに「見られたくないならアナウンサーになるな!」と怒られてしまって。
一瞬驚いたけど、少しして「たしかにな」と。「人に見られたい」と思ってアナウンサーになったわけではないけれど、この職業に就く覚悟ができていなかったとハッとしました。あの時、怒っていただいたことで、やっと腹が決まった気がします。
※ふるたちの「舘」は「舎」「官」が正しい表記です。
撮影=山元茂樹/文藝春秋