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——異例の大抜擢だったのでは。

宇賀 そうみたいですね。実は今回のエッセイを執筆するにあたって、久しぶりに古舘(伊知郎)さんに電話したんです。そうしたら、「新人がいきなりデビューなんて当時異例だったんだから、それを強調して書きなさい。そのあと他も出てきたけど、先例を作ったのは君なんだから」と言っていただいて。「あ、そうだったのか」って。

入社前の1ヶ月間で原稿読みを特訓

——準備はどうされたんですか?

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宇賀 本来なら入社して半年くらい研修を受けて、しっかりスキルを身につけてから現場デビューをするはずなんです。ただでさえ私はアナウンススクールも出ていないのに、さらにそのステップを飛ばしていきなり生放送。当然メディアに出るのは初めてだし、周りに知り合いもいなくて、最初は不安しかなかったですね。

 

 でも入社前の1ヶ月間、特別に研修を受けさせてもらえることになって、それからは毎日局に通って基本的な番組の流れを教えてもらったり、原稿読みの特訓をしたり。その短期間はかなり頑張りました。

 そして迎えたデビュー当日、本番前に「失敗したらどうしよう」と緊張する私に、当時のプロデューサーが「視聴者も、最初から完璧なものを期待してるわけじゃない。今年入ってきた新人がどう成長していくか、その過程も含めて楽しんでくれるから大丈夫だよ」と言ってくれて、とても気が楽になったのを覚えています。

デビュー当日を超える緊張感や達成感は、10年間のアナウンサー人生を振り返ってもない

——初日の放送はうまくいったのでしょうか。

宇賀 それが……デビュー当日は大荒れの天気で、土砂降りの雨に雷も鳴っていて。新人なので、原稿に「ここは明るく読む」とか「ここで息継ぎする」とか、一言一句びっしり書き込んでいたんです。でも横殴りの雨で原稿はぐしゃぐしゃになり、文字も滲んで全然読めなかった。

 

——かえって一生記憶に残る日になったのかもしれません。

宇賀 本当に。でも当時の私は、「よりによってデビューの今日、なんでこんなに天気が悪いの?」と思ってた。ただ、ふと現場を見渡すと、カメラさんや照明さん、ディレクターさんたちが傘も差さず全身びしょ濡れになりながら、雨の音にかき消されないように必死に声を張り上げている姿が目に入ったんです。