ダルビッシュの若手への技術指導をめぐって
今回のWBCが始まる前の、侍ジャパンの合宿中で、これまでのWBCでは目にしなかった出来事があった。メジャー組でいち早く参加していたダルビッシュ有(サンディエゴ・パドレス)が、2月17日の宮崎での初日の練習後、佐々木朗希や宮城大弥、山本由伸ら若手投手たちと意見交換したのである。その後もダルビッシュが中心になって食事会を開催、若い選手たちと積極的にコミュニケーションをとり、技術指導を行っていた。
この点についてダルビッシュは、「キャリアというのは正直関係ない。お金をいただいて野球をしているし、プロであるのでずっと成長している姿勢は崩してはいけない。年功序列とかそういうのはまったく考えていない。アメリカでの生活が長いので、ずっと日本にいると最新の情報が得られない部分もある。そういうのをしっかり情報共有して、お互い成長していきたい。勝ち負け以外にもそういうこともしていく」と報道陣に語っている。
この発言について橋上は、「一部の人のなかからは『昔では考えられない』という声も聞こえてきますが、私は評価すべきだと思っています」と話す。その理由として、「新しい技術を知ることのメリット」「WBCのコーチならではのジレンマ」「日本が勝つために必要なこと」の3つが挙げられるという。
自分のためだけでなくチームに還元するために
まず、「新しい技術を知ることのメリット」は、自身の野球観を広げるためにも大切なことである。2009年の第2回WBCで、内野守備・走塁コーチを務めていた高代延博が、川﨑宗則(当時はソフトバンク)に守備の基本を教え込んでいる最中、巨人の阿部慎之助がその光景をじっと見ていた。あまりにも熱心に見ているので高代が、「そんなに守備に興味があるのか? それともファーストにコンバートする気か?」と訊ねると阿部はこう答えた。
「高代さんが教えていることを巨人に持って帰って、若い選手たちに教えてあげようと思っているんです」
野球のスキルを広げるために、どん欲に新しい知識を入手して、チームに還元しようとする阿部の姿勢を高代は高く評価していた。今回、ダルビッシュとの会話のなかからさまざまな知識や技術を習得しようとする侍ジャパンの若手選手も自身のスキルアップはもとより、何らかの形でチームに還元したいという気持ちがあるに違いない。