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オルガンも弾けるし、お習字も上手だし、前屈もできる

哲代 一人は気楽だけど、誰かと繋がるのもええですよね。

矢部 そうですね。僕は父が絵本作家だったので、小さい頃から絵を描くことが好きで、漫画を描くようになったんですが、哲代さんは、絵を描くのは得意ですか?

哲代 絵は全然です。小学校のときも図画は常に乙やった。

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矢部 乙……。

哲代 デイサービスに行くと、工作をすることもあるんです。あれが苦手で。職員さんに「これちょっと手伝うて」って(笑)。

矢部 絵を描くの、楽しいですよ。

哲代 完成品が意に沿わんものですから。先生してた頃は、子どもらに描け描け言うてましたけど。

矢部 好きなことや得意なことをやった方がいいですから無理に描かなくてもいいですよ。哲代さんはオルガンも弾けるし、お習字も上手だし、前屈もできますし。僕は体がめちゃくちゃ硬いんです。

哲代 前屈は誰でもできるもんかと思うとりました。本に柔軟体操しとる写真が載って、みんなに体が柔らかいと言われるようになって、よけいに調子に乗りだした(笑)。

矢部さんより体が柔らかい哲代おばあちゃん ©文藝春秋

矢部 あはは。

哲代 本のおかげで、色んな人と出会えるようになって。102歳になってこんなに人と繋がるとは、びっくらですよ。ありがたいです。

矢部 お元気でご機嫌だから、みんな哲代さんと繋がりたいんですよ。

哲代 私もね、とがっとった時期もあったし、自分が嫌いだった時期もあったし、沈んだときもありましたよ。子どもができなかったことで自分を責めたときもあったし。

矢部 102年の人生で、何歳くらいが一番お辛かったですか?

哲代 うーん、やっぱり結婚したてはね、家や環境にも慣れとらんし。あの頃が一番しんどかったでしょうかね。

矢部 小学校の先生のお仕事もされていたんですもんね。

矢部さんの後ろには、哲代おばあちゃんの夫の良英さんの写真 ©文藝春秋

石井 嫁ぎ先は百姓じゃったけん、一分でも早く学校から帰って手伝わにゃいけんの。トットットッと自転車踏んで急いで帰って、ひと鍬でも打たんといけんと思うてね。

矢部 そうでしたか。本の中で、心をお月様にたとえていましたよね。

哲代 はい。満月のときもあるし、欠けて三日月のときもある。

矢部 僕もそうです。三日月どころじゃなくてね、皆既月食ぐらい真っ暗なときもあります(笑)。