「アメリカは極めて独善的な国だ」
東 さらに、トクヴィルはアメリカ民主主義の特殊性として、宗教との関係にも注目しています。
当時のヨーロッパでは、民主主義者と言えば反宗教でした。ところがアメリカは、そもそもイギリスからメイフラワー号で海を渡ったピューリタンたちが作った国です。弾圧を逃れて、理想的な国家を建設しようとした。信仰の自由を求めた彼らの宗教的情熱と「自由と平等」という民主主義的な理念が、アメリカではたまたま一致することになる。
先崎 それは、大統領選挙を見てもよく分かります。日本人からすると、トランプを支持するキリスト教福音派の人たちが演説であれほど熱狂したり、あからさまに相手を批判したりする光景は異様に見える。あと、自己啓発という行為や文化が異常に発達しているのもそうでしょう。自由の国と言えば聞こえはいいが、イギリスから海を渡ってきた“根無し草”の人たちが、聖書を読み解いてくれる人に情熱的に駆り立てられて、それによって日々のストレスを発散した「反知性主義」の伝統が彼の国にはある。宗教も民主主義も「アメリカ的」なのです。
東 アメリカの「正義」や「自由」は、かなりのところ特殊な歴史的・地政学的条件に基づいている。この点にはしっかり注意しなければなりません。今、全世界で衝突が起きているのは、それぞれ独自の歴史や文化を持つ国に、民主主義の名のもとにアメリカ型の価値観を押し付けているからではないでしょうか。ロシアや中国にしても、民主化してもらわないといけないのは確かです。しかしそれがアメリカ型である必要はない。
先崎 先日、とある外務省幹部から面白い話を聞きました。その方が言うには、太平洋諸島地域をまわると、現地の人たちは「アメリカは極めて独善的な国だ」と感じているそうなんです。やっぱり、自分たちの価値観の普遍性を自明なものと考えてしまっている。要するに、アメリカは上から目線なわけです。
特殊なことを実践している“実験国家”という意味では、実はアメリカって、ソ連とか中国に近い国なんですよ。
東 まったくそうだと思います。良い意味でも悪い意味でもね。
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東浩紀氏、先崎彰容氏による対談「激論! 戦争・正義・平和」の全文は、月刊「文藝春秋」2023年4月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。
激論! 戦争・正義・平和