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 SNSで拡散されている昆虫食ががんや不妊の原因となるといった情報はほぼデマだと言えるが、正確な栄養情報が足りていないのも事実。それを不安要素と考えるのはおかしなことではないが、イコール食用昆虫が「危険」ではないことも注意したい。 

ラオスでは栄養教育にも母子手帳にも、昆虫が食材として登場している。

2021年にEUが一部の虫の食用流通を許可

「先にも触れたように、食品安全評価はEU圏では独立機関であるEFSAから安全であると評価されています。2013年のFAOの発表後、安全面の検証で一番しっかり動いたのがEUです。

 EUヨーロッパ連合(当時EC)は1997年に、それまでに食用として流通していた食品を無審査で流通OKとして、それ以外を食用として流通させる場合は厳しく審査する『ヌーベルフード』にしました。昆虫食はヌーベルフード扱いだったため、昆虫養殖事業者組合は2015年から行政に働きかけ分析データを共有し、食品安全評価を独立機関であるEFSAが行い、2021年にEUが食用流通を許可したという経緯があります」

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 つまりこれまで無審査で流通していた食品と比べると、ヌーベルフードとして認可されたコオロギ、ミールワーム、トノサマバッタについてはより高いレベルの安全性が確保されているともいえるのだ。

「それでも安全性が十分でないと感じるのも自由ですが、これらの昆虫よりデータが揃っている食品を求めるならば、選択肢は減るでしょう。食品にゼロリスクを求めることで、栄養が取れなくなるのは本末転倒ではないでしょうか」

意外と知られていないコオロギ情報

 ちなみに日本独自の認可制度はないが、現在食品や飼料原料として使うコオロギの安全性を確保するため、民間団体である研究機関や企業などでつくる昆虫ビジネス研究開発プラットフォーム(iBPF)が、タイなどの事例を参考に生産のガイドラインをまとめている。

「EFSAの評価の中で情報不足とされたのがアレルギーで、養殖によって新たにリスクが生じる可能性を気にする人もいるでしょう。ちなみに現状、先進国のほうが途上国よりアレルギーの発症率は高いので、日常生活で重要な対策は甲殻類アレルギーがある人にはしっかり告知をすること、罰ゲームやサプライズで食べさせないことです。

 すでにタイでは1998年にローカルフードとして養殖が開始され、2001年には一村一品運動(OTOP)として拡大し、2011年には7500トン、近年は年間2万5000トンが2万軒以上の小規模農家を中心に生産され、消費されていると推定されています。このタイにおけるコオロギ養殖は参加型開発の成功事例として有名ですが、『新しい食』としてアピールしたい先進国のスタートアップの立場からは言及しにくい情報でしょう。

 そのため、日本の消費者が情報不足から、『人類はこれまでコオロギを食べてこなかったのに』と違和感と不安を感じてしまったのも仕方ありません。少なくともコオロギを含む食用昆虫の生産量を伸ばしているタイにおいて、食物アレルギーの発症が増えたという報告はありません」 

真価が問われるのはこれから(写真:筆者撮影)

「都合の悪い情報が隠されている」と騒がれているが、それは古い書物に出てきた虫の扱いや多くの生き物にも当てはまる寄生虫の話だけでなく、伝統的に食べてきた国のこうした情報も含まれていそうだ。

 このコオロギ騒動は、今まで広く知られていなかった昆虫食の正確な情報が、知られるようになるきっかけになるかもしれない。それがネガティブな情報であっても、ポジティブな情報であっても。

(参照文献)
コオロギ生産ガイドライン

タイの昆虫食調査

コオロギとブタのアミノ酸スコア

2010年から2019年までのタイ北部の就学前の子供の食物アレルギーの有病率と時間的傾向