「まずはデータを、栄養学的にきちんと解釈することが大事です。例えばコオロギ粉末は生の牛肉よりタンパク質が高いというデータがあっても、牛肉を乾燥させたビーフジャーキーと比較する方が適切ではないかなど、想定される食べ方をふまえた上で比較することが栄養学の基本です。
コオロギはプリン体が高いとの論文もありますが、プリン体と尿酸の合算値で、他の新しい論文と合わせて比較する必要があるデータでした。健康な人がプリン体や尿酸を高くして病気になるわけではなく、血中尿酸濃度は低すぎてもいけませんし、体内のメカニズムは複雑です。つまり単純に食材からプリン体や尿酸が検出されたからといって、適量を食べようとはなっても、排除せよとはなりません」
現在は大学や研究機関が研究開発を進めている
先のEFSAの評価でも毒性のある成分は検出されておらず、特定の成分に着目して全体を見ないのは「木を見て森を見ず」になってしまう。
「栄養バランスをスコア化した論文では、コオロギは豚肉と同程度と結論されましたが、実際に食べてきた人が貧困地域に偏っているので、大人数の疫学調査など、先進国を巻き込んださらなる研究が求められているのは確かです。
現在は大学や研究機関が動き、投資を集め研究開発を進め、そこへフードテックと呼ばれる企業も参加し始めました。一部が高価な嗜好品として売られていますが、それらは微細藻類の健康食品や培養肉の副産物の化粧品などと同様に、ファンを巻き込むための性格が強い製品と言えるでしょう」
昆虫食の課題
まだまだ飼育効率や環境への影響、栄養面のメリット・デメリット、効果検証の研究は他の農畜産物に比べて圧倒的に少ない状況だ。
「特に私が実感する不足は、栄養分野に昆虫学者が足りないこと。熱帯の昆虫の多い地域、野生食材が利用される地域ほど昆虫食は温存されていて、これはグローバルサウス問題における貧困地域と重なります。
しかし現地で日常的に食べられている昆虫を分類し、学名、生活史を調べ、旬を知る研究者もいますが、国際協力の分野とは交流がほとんどありません。今後は私たちのような国際保健の実践として、昆虫を食べる地域の子供たちを対象にした栄養の知見が蓄積していくでしょう」