スピルバーグは、巨大な恐竜が登場するパニック映画やスーパーヒーローが活躍するアクション大作、歴史ドラマ、SFモノ、はたまた軽いロマンティックやコメディーなど、ほぼ全ジャンルを手がけている。
「『ジュラシック・パーク』(1993)では僕の非現実な想像力を思う存分駆使し、大好きなジャンルのSFの域を広げたと思う。映画作りに臨む度に僕の夢を現実のものとして画面に描く。僕が楽しければ観客も喜んでくれると信じているんだ」
ジョン・フォードに心酔
映画監督としてキャリアの終盤に差し掛かった今、なぜ彼は自伝的作品を製作したのか。昨年11月の記者会見や関連イベントで、彼から聞いた話を紹介しよう。
『フェイブルマンズ』の物語は、1952年のニュージャージーからはじまる。スピルバーグがモデルとなった主人公サミー・フェイブルマンは、ユダヤ人の家庭で生まれ育つ。外で遊ぶより、家の中でひとり空想にふけるのを好む内向的な少年だ。そんな彼は、ある日、両親に連れられ初めて映画館へ行き、そこでセシル・B・デミル監督の『地上最大のショウ』(ジェイムス・スチュアート主演)に釘付けとなる。
サミーは汽車と車が衝突するシーンに魅せられ、買ってもらったおもちゃの汽車で何度も衝突を再現するように。それを見かねた母が、サミーに8ミリカメラを与える。レンズを通して撮影する楽しさを覚えたサミーは、創作意欲と共に勇気も湧き、やがて妹たちを“役者”として仲間に迎え入れて映画作りに夢中になっていく。
「自分が少年時代に撮った8ミリ映像を再現するのは楽しかった。素人ながらに撮った他の映像も再現できたらよかったけどね。再現版を撮った時、16歳の自分が置いたカメラの位置が気に食わなくて、より良い位置に置き直した。どうしても我慢できなかったんだ」
サミーは父親の転勤でニュージャージーからアリゾナへと引っ越す。映画撮影は編集機も手に入れて、本格的なものへとなっていく。その頃、多大な影響を受けたのが「西部劇の神様」で黒のアイパッチがトレードマークのジョン・フォード監督だ。とりわけフォードの『リバティ・バランスを射った男』(1962)に憧れた。サミーは、アリゾナ砂漠の荒野をロケ地に第二次世界大戦を描いた“大作”『地獄への脱出』を製作し、上映会で家族や友人から賞賛される。
「アリゾナでの少年期ではもっぱらジョン・フォードに心酔して、映画のアングルなどを真似していたんだ。西部劇や戦争ドラマを創って得意になっていた。僕の映画に勇んで出演してくれた妹たちは映画業界で働いている。最近、次回は本物の西部劇をつくりたいと言ったら『女性の役を多くしてくださいね』と、やんわり忠告されてしまったよ(笑)」