でも、60歳で定年ってのが見えてきて、いろいろとね。僕はたまたまいい上司に恵まれて、編集局次長というところまで引っ張り上げてもらえたものの、そこで終わっているんです。職責は「夕刊フジ」の編集長だけど、役職定年を57で終えているから管理職ではない。サラリーマンとして中途半端なんです。そもそも、そういうコースを望んでいなかったのもあるんですけど。
かといって、なにかのプロフェッショナルでもない。外交や政治に詳しかったら、そっち方面のライターで食っていけたり、大学に迎えられるとかあるだろうけど。僕は芸能を中心に広く浅く雑多にやってきたので、そういう面でも中途半端で。宙ぶらりんみたいな虚無感がありつつも、5年や10年先のことを考えないでやってきた感じですかね。
56歳で子供って並大抵のことじゃない
――そうしたなか、2020年2月末に妊娠がわかったと。当然“おめでた”ですが、自身の年齢を考えると衝撃でもありますよね。
中本 いまはそこまで偏見はないけど、僕の母親とか昭和初期に生まれた世代あたりだと、50過ぎでできた子供を“恥かきっ子”なんて呼んだりしてたじゃないですか。僕はそういう言葉を聞いて育ったので、最初は人に子供ができたことを言うのが恥ずかしいところがありました。
自分が56歳で子供ができて、さすがに「そんな歳で子供を作った人が、この世にいるのか?」と思って。いろいろ検索したら、山本五十六は父親が56歳のときにできた子だったから五十六と名付けられたなんて知って(笑)。「そういえば、市村正親さんは59歳で子供をもうけたな」とか思い出したけど、それは非常に珍しいニュースなわけで。そう考えると、やっぱり56歳で子供って並大抵のことじゃないんだなって。
友人や知人に高齢で父親になった人がいれば、考え方も違ったんだろうけど、いませんでしたから。でも、本を出したら「うちもそうなんだよ」と教えてくれる人も出てきました。やっぱり、高齢で子供ができた人は言いにくいものがあるのかもしれませんね。
妻は“3ない”よりも自分の子供がお腹にいる喜びの方が大きかった
――衝撃の後には、不安も押し寄せてきたのではないかと。
中本 妊娠を知らされて喜んだけれど、同時に「経済的に大丈夫かなぁ」とも思いました。それと体力。僕が56歳で妻が45歳の高齢夫婦で、走り回る子供を育てられるのかなって。さらに生きていられる時間もそんなにない。残された時間がない、将来のお金がない、若い頃の体力がない。本にも書きましたけど“3ない”ですよね。
妊娠する前に冗談半分で「この年齢で子供ができたらどうなるんだろうね?」と話をしたら、妻は「お金とか大変そうだよね」と答えていたんですよ。で、妊娠を告げられたときに彼女は“3ない”についてどう思っているか確認したんだけど、そんなことよりも「もう産むわよ!」って感じで。