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「せめて妻の命だけでも助かってくれ」45歳妻が妊娠7ヶ月で帝王切開…59歳の“高齢パパ”が語る、高齢出産までの壮絶な道のり

中本裕己さんインタビュー #1

2023/03/26

genre : ライフ, 社会

中本 いまのかみさんは12歳下ですけど、前のかみさんは8歳下だったんです。僕が28歳、先方が20歳で結婚して、その2年後に別れまして。離婚したのが「子供をどうしようか?」と考え出したあたりで。子供ができたらできたでいいかなと思ってたんですけど、妊娠することはなく。それもあって、僕のほうも子供ができにくいのかなと感じるようになったんです。

 

「夫婦で妊娠できるかどうか調べたほうがいいよ」と言われたが…

――48歳で結婚したとなると、さすがに「子供はどうするの?」などと周囲から聞かれたりしないものですか?

中本 いや、聞かれました。50歳のときに中学の同窓会に出たら、不妊治療を経て高齢出産をした同級生の女性に「子供は作らないの?」と。でも、それは女性の立場から真摯に聞いてきたんですね。

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「僕も彼女も子供ができにくい」と答えたら、「あなたはそれでいいかもしれないけど、女性は年齢を重ねるごとに出産のチャンスがなくなっていくんだよ。まだ奥さんが40歳前後なら、夫婦で妊娠できるかどうか調べたほうがいいよ」って強く言われまして。

 同窓会の直後あたりは、一瞬だけ「ちゃんと調べて不妊治療しよう」的なムードになったんですよ。それでも「ここまできてできないんだから、できないんだろうね」となって、検査や治療は考えませんでした。

――どちらかが気になって検査を受けようとは。

中本 僕は医療情報を載せた「健活手帖」という新聞の編集長もやっていますから、取材で精子の検査キットを製造する会社の方と知り合うわけです。そうすると「取材を兼ねて検査してみませんか」と言ってくれるんですけど、自分の精子に問題があることが判明したら「男としてダメ」と突きつけられるような気がして。それもあって、検査せずにズルズルときてしまっていたという。

子どもを抱く中本さん(本人提供)

キャリアが中途半端で宙ぶらりんみたいな虚無感

――お子さんのことは別にして、夫婦としてはどういった未来像を描いていたのでしょう。

中本 そんなに真剣には考えていなくて、「ふたりで楽しく生きていければいいな」と。ただ年齢差があるので、どっちにしろ僕のほうが早く病気になったり、死ぬ可能性が高い。しかも定年も早く来るし。

 妻のほうが若いので、最終的には彼女が主として働いて、僕は主夫になろうかなって。これはいまでもそうなんですけど、そういう未来を思い描いていましたね。まぁ、妻も僕もあまり深く考えていなかったです。

――どこかで安心感と表裏一体の虚無感みたいなものは到来しませんでしたか? 妻もいて、仕事もあって、とりあえず食べるのには困らないだろうけど、そこから広がることはないといいますか。

中本 ありましたね。年齢的なこともあるけど、僕のいる新聞業界の構造やキャリア的な面からも、そうした感慨を抱きました。紙媒体が落ち込んだ分、ウェブでなんとかしなきゃと、50代前半までは前向きに頑張っていたんですよ。

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